2021.10.02

月経痛(生理痛)は電気で対策? TENSによる月経痛治療を紹介

月経痛(生理痛)は、月経に伴う不快症状の一つです。約8割の女性が有しており、重度の人では服薬をしても仕事を休まざるを得ないなど、社会活動に支障をきたす場合もあります[1]。

月経痛の対策には、鎮痛剤やピルの服用が挙げられますが、電気刺激による対策方法があることを存じでしょうか?今回は月経痛の治療方法として、電気刺激療法(TENS)を紹介します。

目次

TENSとは
 TENSの鎮痛メカニズム ①ゲートコントロール
 TENSの鎮痛メカニズム ②鎮痛性の化学物質の放出
月経痛(生理痛)へのTENSの鎮痛効果
TENS使用時の注意
まとめ:月経痛(生理痛)は社会全体の問題

TENSとは

今回紹介する電気刺激は、TENS(Transcutaneous electrical nerve stimulation)と呼ばれる方法で、日本語では経皮的電気刺激療法と呼びます。

医療現場で使われる電気刺激には様々な種類が存在しますが、TENSもその一種で、主に鎮痛目的で用いられます。

TENSには2つの鎮痛メカニズムがあります。まずは、なぜTENSで痛みが緩和されるかを見ていきましょう。

TENSの鎮痛メカニズム ①ゲートコントロール

TENS 月経痛緩和 ゲートコントロール ペインゲート

ゲートコントロールの概略([2]より引用)

痛みも含め、ヒトの感覚は脳で知覚されます。例えば、指に傷を負うと、痛みのシグナル(電気信号)が、指先から脊髄の感覚神経に伝わり、そこから脊髄内を上行して脳に伝わります。

この上行する痛みのシグナルを、別の刺激(電気刺激)で邪魔することが、TENSの一つ目の鎮痛メカニズムです。

この仕組みは、別の刺激によって「痛みの門(ゲート)を制御(コントロール)する」ということから、ゲートコントロール理論と呼ばれます。

ゲートコントロールに使用する刺激は、電気である必要はありません。身近な例として、何かに体を強くぶつけて痛みを感じた際、その部位を手で抑えると思いますが、これもゲートコントロールを利用した鎮痛動作です。皮膚への圧迫刺激によって、痛みのシグナルを邪魔しているわけです。

痛覚や触覚のシグナルは、末端から脊髄に入力され、脳へ伝達されます。この際、脊髄のどの高さに入力されるかは、皮膚の位置や内臓の種類ごとに決まっています。この、脊髄のどの高さの感覚神経が、皮膚のどの位置の感覚を司っているか(支配しているか)を表した図をデルマトームと呼びます。

月経痛 生理痛 TENS 電気刺激 デルマトーム

デルマトーム(アルファベットと数字は脊髄の高さを表す)

ゲートコントロールで適切に鎮痛効果を得るためには、疼痛発生源と同じデルマトームを刺激する必要があります。

月経痛の場合、疼痛の発生源は子宮になるため、TENSは子宮と同じデルマトームである、ヘソのやや下で行うと効果的だと報告されています。

TENS 月経痛緩和 電極貼付位置

TENS適用時の電極貼付の様子([3]より引用)

TENSの鎮痛メカニズム ②鎮痛性の化学物質の放出

TENSの2つ目の鎮痛メカニズムは、鎮痛性の化学物質の放出です[2]。

神経が電気刺激を受けると、オピオイド*やGABA等の鎮痛性の神経伝達物質が放出され、これにより痛みが緩和されます。
*代表的な鎮痛薬であるモルヒネは、オピオイドの一種です

実際、オピオイド薬に耐性を持つ動物では、TENSの鎮痛効果が低下することが報告されています。

電気刺激による化学物質の放出では、電気刺激の周波数によって、放出される物質も変化します。

特定の鎮痛性物質に体が慣れてしまわないように、TENSでは様々な周波数での刺激が良いと考えられています。

月経痛(生理痛)へのTENSの鎮痛効果

TENSの鎮痛メカニズムは分かりましたが、TENSによって月経痛は緩和されるのでしょうか?

TENSの月経痛への適用は、様々な研究で報告されており、7つの論文の結果を合わせたランレビューでも、プラセボと比較して高周波TENSに月経痛の緩和効果が確認された、と報告されています[4]。

また、TENSと鎮痛薬であるイブプロフェンを併用した研究では、イブプロフェン単独使用群よりも、併用群ではイブプロフェンの服用間隔(時間)が有意に延長されることが確認されました[5]。このことから、TENSとイブプロフェンの併用で、鎮痛効果が増大すると考えられます。

更に、カナダ産科婦人科学会のガイドラインにも、高周波TENSには月経痛の緩和効果があり、薬物療法が有効でない/使用できない患者に対して有効な治療選択肢である、と記されています[6]。

以上は海外での報告ですが、月経痛に対するTENSの鎮痛効果は、日本でも報告されています。

TENS 月経痛緩和効果

月経痛開始からの痛みの変化率([3]より改変)

2017年の兵庫医療大学の研究グループによる報告では、月経痛を有する22名の成人女性にTENSを適用したところ、非適用時と比較して、各被験者が感じる疼痛の強さの減少が確認されました。

この研究でのTENSの適用時間は、月経痛の開始(0分)から30分間のみでした。しかし、グラフを見ると、TENS終了後も鎮痛効果が持続していることが分かります。これは、前述した鎮痛性物質の放出による効果だと推測されました。

以上のように、月経痛の鎮痛効果が報告されているTENSですが、大きな副作用については報告されていません。

TENS使用時の注意

ここまで読んで、TENSを試してみたいと考えている方もいると思いますが、残念ながら、国内で医療機器として、月経痛の緩和効果が認められた電気治療器は存在しません。

ただ、TENSが可能な電気治療器(医療機器)は様々なメーカーから発売されています。TENSでの月経痛治療を試したい方は、必ず医療機関と相談してから実施するようにしましょう。

まとめ:月経痛(生理痛)は社会全体の問題

2013年の調査によると、月経に伴う不快症状による経済損失は、国内で合計6,828億円と推定されました[7]。月経に伴う問題は、女性だけでなく、男性も含め社会全体で取り組むべき課題だと言えます。今回紹介したTENSも含め、月経痛に対するより良い対策方法が確立されていくことを願います。

 

【参考/出典元】
[1]財団法人女性労働協会, 働く女性の健康に関する実態調査, 2004
[2]本庄康治, TENSの理学療法への応用, PTジャーナル・第50巻第3号・2016年3月
[3]中川愛, et al. "健常成人女性の月経痛に対する経皮的電気刺激治療の効果." 理学療法学 44.4 (2017): 272-276.
[4]Proctor, Michelle, et al. "Transcutaneous electrical nerve stimulation for primary dysmenorrhoea." Cochrane Database of Systematic Reviews 1 (2002).
[5]Dawood, M. YUSOFF, and J. O. S. E. F. I. N. A. Ramos. "Transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) for the treatment of primary dysmenorrhea: a randomized crossover comparison with placebo TENS and ibuprofen." Obstetrics and Gynecology 75.4 (1990): 656-660.
[6]Burnett, Margaret, and Madeleine Lemyre. "No. 345-primary dysmenorrhea consensus guideline." Journal of Obstetrics and Gynaecology Canada 39.7 (2017): 585-595.
[7]Tanaka, Erika, et al. "Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study." Journal of medical economics 16.11 (2013): 1255-1266.

 

監修医 柴田綾子

<この記事の監修>
淀川キリスト教病院 産婦人科
柴田 綾子(医師)
■産婦人科専門医 ■周産期専門医(母体・胎児)
淀川キリスト教病院

<著者プロフィール>
TENGAヘルスケア 研究開発主任
牛場 栄之(うしば ひでゆき)
平成3年生まれ。大学および大学院では神経科学を専攻、2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当、その後現職。
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