妊活中にパートナーと気持ちのすれ違い。そんな場合の考え方・対処法
妊活を始めたときは、お互いに協力しようと言っていたのに、徐々にすれ違いが生まれて喧嘩になってしまったことはありませんか?
カップル間で気持ちがすれ違ってしまう理由とその際の考え方や対処法について、カップルカウンセリングが専門の生殖心理カウンセラーである平山史朗先生に伺いました。
カップルはどのようにすれ違ってしまう?
平山先生:妊娠をするのは女性なので、やはり毎月妊娠していないということを身体的に突きつけられてしまうのは女性側です。
そんな中で不安になったり、焦ったりする女性に対し、男性は「焦らないで」と言ってしまうことがあります。「思いつめるからよくない」という言説ですね。ただ、それは女性の気持ちには寄り添っていないので、女性が怒ってしまう。そうなると夫婦関係が悪くなったり、距離ができたりしてしまいます。
男性は「思いつめて大変そうな妻を励ましたい」と、良かれと思って言っているのです。
しかし、女性は「どうしてそんなこと言うの? 子どもが欲しいのだから思いつめるのは普通でしょ? 私の子供が欲しい気持ちをぜんぜん理解してくれていない」と対立してしまうのです。でも、どちらも相手が嫌いでそう言っているわけではないのですね。後述しますが、アドバイスよりも相手の考えていることを理解して「わかっているよ」と伝えることが大事です。
「子どもが欲しいのは私だけ?私ばっかり妊活を頑張っている」と思うとき、逆にそう言われてしまったときは
平山先生:「夫が妊活に協力してくれない」「私ばかりが頑張っている」と失望する女性がいます。
最近は男性向けのサプリメントもありますよね。例えば、妻が夫に「サプリを飲んで欲しい」とお願いしたとき、男性の中には「それってどれだけ効果があるの? エビデンスは?」や「お医者さんは、これからやる不妊治療に多少の精子の良し悪しは関係ないって言っていたよ」と返してしまう人がいます。男性は「サプリに高いお金を払うくらいなら、不妊治療の予算に回したほうがいいじゃないか」と、自分が正しいことを言っていると思っているのです。
ただ、妻は「じゃあ、あなたは何もしないの? 私ばっかり頑張んないといけないってことじゃない」と失望して怒ってしまいます。夫はどうして怒っているのか、わからないのですよね。
ポイントは女性の「私ばっかり」という言葉の背景が伝わっているかどうかです。この言葉には「あなたと一緒に頑張っているという感覚がほしい。そういう感覚を持てないことがとても辛い」という本音が込められているのです。ただそういう風には言えなくて「私ばっかり」「あなたは何にもしてない」という言い方をしてしまうから、夫も理解できないのです。
この場合、夫は「サプリを飲んで、意味あるの?」と目先の行動について言及していますが、妻は行動の奥にある、「一緒に頑張ってくれている」という姿勢を求めています。
妻は「二人のための妊活なのに、『あなたと一緒に頑張っている』って感じられないことが辛い」と言ったら、気持ちが伝わるかもしれません。
逆に、夫が妻の本音を汲み取ることも大事ですよね。「少しでもよいことがあるならサプリを飲んでみよう」と言ってみたり、「サプリ、いいね」と一旦気持ちを受け入れ、「実はこっちの方が効果的だと思っているのだけど…」と別の選択肢を提案してみたり、コミュニケーションの余地はたくさんあります。
言葉をそのまま受け取ってしまう人もいるので、裏にある思いというのがなかなか伝わりづらくなっています。思っていることをどう表現するのかを、カウンセリングでサポートしていかないと難しいカップルも増えていると思います。
妊活には役割がある。協力するためにオススメの考え方とは
平山先生:妻は「夫は何もしていない」と思うかもしれませんが、夫は夫なりの貢献をしていることもあります。例えば「妻が望む治療ができるように遅くまで働いている」というのもあるかもしれません。それは彼なりの妊活なのです。妻がその思いを尊重することも大事です。
お互い妊活に貢献しようと頑張っているのだけれど、相手が望んでいることができなかったり、相手がしてくれたことを受け取ることができなかったりすると、分かり合えなくなっていってしまうのだと思います。
円満にいくためには、お互いの役割を理解することが大事です。自分と相手は同じ形でなくても、それぞれの立場で貢献しているのだと分かればいいのです。つい「私はこれだけ辛いのだから、あなたも同じだけ辛く感じて」というようなメッセージを送ってしまうのですが、辛さの感じ方も、治療の負担も男女では絶対的に違います。同じような反応はできないわけです。できないなりに、できることをやるというのが大事です。
妊活に取り組む意識が相手と共有しづらい場合、仕事に例えるのが有効な場合もありますね。
陥りがちなNG思考パターン。相手が間違っているから正そうとしてしまう
平山先生:夫婦で意見が食い違うと「自分が正しくて相手が間違っている」「正しい方に直さないといけない」と考えがちです。ただ、お互いが正しいと思っているのだから、絶対に歩み寄れないのです。それは2人の「違い」であって、どちらかの「間違い」ではないのだと考えることがものすごく大事なのですよ。
そもそも正しい・間違っているというのは、基本的にはその人の主観や基準にすぎません。理解というのは、相手と「違って」いるなと思った時に、どうして相手はそう考えるのだろうと想像すること・想像しようとすることなのです。
そういう想像ができれば、自分の主張を改めて考えたり、相手が受け取りやすい言い方やプランを考えて交渉したりすることができます。歩み寄っていけるわけです。でも「自分が正しくて相手が間違っている」と考えている限りは、絶対に交渉ができない。どちらかが屈服するしかないからです。
相手の言い分を聞いてしまうと、自分が負けのように感じてしまう人って多いのですよ。コミュニケーションを勝ち負けにしてしまうのですよね。「じゃあいいよ。お前の言う通りにしたらいいじゃん」って夫は怒るでしょう。それは全然コミュニケーションじゃないのですよ。
「共感=同じ気持ちになる」ではない。相手の心情を理解し、理解していると伝えることが大事
平山先生:妊活や夫婦関係の読みものでは、よく夫に対して「妻を理解しましょう」「妻に共感しましょう」ということが言われます。そんなとき、「それって相手の言うことが正しいと考えたり、相手と同じになったりしないといけないのですか」と思ってしまう夫もいるでしょう。
例えば妻が「辛い」というのに共感する場合、自分まで辛くならなければいけないのかと。そんなことできるわけないと思ってしまうのですね。ただそれは「共感」を間違って理解しているのです。
「共感」というのは、自分が同じ気持ちになる「同感」という意味ではなくて、あくまで相手がどんな風に感じているのかを理解するということなのです。同じ状態にならなくていいのです。「あなたのようには感じられないけれど、きっとあなたはこんな風な辛さなのだろうな、こんな悲しみを抱えていて、今あなたは涙を流しているのだな」と正確に理解できていれば、それは共感できていることになるわけです。
さらに「あなたがこう感じていることを、私は理解しているよ」と相手に伝えてはじめて、「共感」と言えるのだと私は考えています。正確に理解して、それが相手に伝われば「私のことをちゃんとわかってくれている」と思うのですよ。この辺りのことを勘違いし、合わせないといけないと考えてしまうと、「嫌です」となってしまうのですね。
考え方を「変える」のではなく「広げる」と考えてみよう
妊活に限りませんが、相手と意見が食い違ったときの考え方や捉え方について「変える」と思わない方がいいです。「広げる」の方がいいと思います。
自分が今まで持っていた考え方や捉え方を変えないといけないとなると、すごく辛いじゃないですか。しかしその自分の考え方を広げて選択肢を増やすと思ったらいいのですよ。
自分の今までのやり方を持ったままで、自分ができなかった捉え方や考え方を手に入れたのだと思えば、すごく向上したような気持ちになります。それが柔軟性なのですよね。
一つしか選択肢がないと、人ってとても頑なになってしまうけれど、これがダメならこれ、これがダメならこれとできる人はすごく柔軟じゃないですか。そういう風になった方が、良い悪いではなくて生きやすいですよね。生きやすいし幸せにもなりやすいです。幸せの道は、たった一つではないのですから。
今回お話を伺ったのは
生殖心理カウンセラーの平山史朗先生
広島大学教育学部心理学科卒(平成5年)
広島HARTクリニック就職(平成9年)
アメリカカリフォルニア州サンディエゴのThe Center for Reproductive Psychology(生殖心理学センター)にてDavid Diamond(Ph.D.),Martha Diamond(Ph.D.)博士らに不妊症患者に対するカウンセリングの個人指導を受ける
平成13年~平成15年厚生科学審議会生殖補助医療部会委員
平成14年7月より東京HARTクリニックの常勤カウンセラーとなる
(財)日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士(登録番号10069)
公認心理師(登録番号 3208)
日本生殖医療心理学会 認定 シニア生殖心理カウンセラー
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