タイミング法で妊活を成功させよう!妊娠しやすい日に適切な妊活を
注)「ちつ」の解剖学的に正しい表記は「腟」ですが、この記事では一般的な表記である「膣」を使用します。
本格的な妊活の第一歩とも言えるタイミング法。
簡単なようで、でも適切に実施しないと効果は期待できません。この記事では、タイミング法の方法や注意点、上手くいかない時の対処方法などを紹介します。
目次
タイミング法の対象者(カップル)とは?
タイミング法(タイミング療法)での妊活が有効なのは、男女共に自然妊娠が可能な場合に限ります。
これらの検査は医療機関で実施できます。タイミング法を自宅で行う場合でも、医療機関で行う場合でも、これらの条件は同じです。
タイミング法を実施する前に、まずは男女共に、医療機関で検査を受けることをオススメします。
タイミング法とは?
タイミング法とは、「女性の体が妊娠しやすいタイミングでセックス(膣内射精)する妊活の方法」です。「女性の体が妊娠しやすいタイミング」=「排卵のタイミング」なので、排卵日の予想が重要になります。
排卵日の予想方法は、医療機関での実施が推奨されますが、自宅での実施も可能です。医療機関と自宅で行うタイミング法では、この排卵日の予想方法に大きな差があるので、それぞれの流れや違いを見ていきましょう。
自宅で行うタイミング法
自宅で行うタイミング法では、以下の方法で排卵日を予想します。
<自宅で可能な排卵日の予想方法>
- 月経周期から予想する(28日周期の人の場合、月経開始日から14日目が排卵日)
- 基礎体温のグラフから予想する(低温期から高温期へ変化する時期に排卵がある)
- 排卵検査薬を使用する
- おりものの状態の変化から予想する
自宅で行うタイミング法は、医療機関で行う場合と比較して、排卵予想日がズレる可能性が高まります。正常な月経周期は25〜38日であり、排卵の14日後に月経が来ます。月経開始後、10日目からの2週間を目安にセックスをするようにしましょう。
医療機関で行うタイミング法
医療機関で行う場合、超音波検査による卵胞サイズのモニタリングや、ホルモン値の検査によって、より正確に排卵日を予想します。また自然に排卵させるだけでなく、排卵誘発剤によって排卵を促す場合もあります。
そして、この排卵予想日に合わせて何度かセックスするように指導されます。
複数回の通院の手間と費用がかかりますが、排卵日が正確に予想できるため、自宅で行う場合よりも、妊娠の可能性は高いと言えます。
セックスするべきタイミング
タイミング法で妊娠するためには、排卵予定日に合わせてセックスをする必要があります。では具体的にどの期間に、何回セックスすればよいのでしょうか?
妊娠の可能性があるタイミングは排卵日よりも手前
[1]を基に作図
こちらのグラフは、タイミング法を行った221組のカップルの、排卵日に対するセックス実施のタイミングと、そのセックスでの妊娠率の関係を表しています。このグラフから、妊娠の可能性があるのは、排卵5日前~排卵当日のセックスであることが分かります。その中でも特に、排卵2日前〜排卵当日に確率が高くなっていることから、この間にセックスすることが重要だと考えられます。
一方、排卵6日前と1日後では、妊娠率が0%になっており、排卵日を外したセックスでは妊娠が難しい、ということが分かります。※絶対に妊娠しないわけではないので、妊娠を望まない人は確実に避妊してください。
これは、精子と卵子の生存期間に関係しています。精子は女性の体内で5日間生存するものもあります。一方卵子は、排卵後24時間以内に受精しなければ死んでしまいます。したがって、妊娠を目指す上では、排卵日より前のセックスが重要ということになります。
排卵予定日の前5日~後1日のセックスがオススメ
妊娠の可能性が高いのは、排卵日2日前~排卵当日だということが分かりました。しかし、自宅でのタイミング法では、排卵日が予想と数日ズレることもあります。それを考慮し、排卵予定日の前5日間と後1日(合計7日間)のセックスがオススメです。
この1週間、セックスは毎日できるとベストです。ただ、毎日のセックスがストレスになると、男女共に逆効果です。自分達の体調や気分を踏まえ、例えば「この期間には3回」など、できる範囲で実施しましょう。妊活がつらいと感じたときの対処法や、気持ちの保ち方については下記のコラムを参考にしてください。
〈参考〉 妊活がつらい時どうすればよいか
自宅ではなく、医療機関でタイミング法を実施している場合は、医師の指導に従ってセックスをするようにしましょう。
また、「何日か禁欲して、精液を溜めてからの方が良いんじゃない?」と考えている方もいるかもしれませんが、それは基本的に間違いです。日々射精して古い精子を出した方が、質の高い精子が生産され、望ましいと考えられています。これはタイミング法の実施期間だけに限りません。禁欲について詳しく知りたい方は下記のコラムを参考にしてください。
〈参考〉禁欲の真実
タイミング法の妊娠率
タイミング法は気軽に始められる方法ですが、妊娠する可能性はどの程度あるのでしょうか。
実施期間と妊娠率の推移
[2]より改変
こちらのグラフは、女性の不妊症患者437名(器質的疾患は無し)の、治療方法別の累積妊娠率を表しています。青いラインがタイミング法での妊娠率です。
不妊症患者の場合、6ヵ月間のタイミング法の継続で、妊娠率は約40%、1年で約50%、2年続けても約60%と横這いになっていることが分かります。
一方、不妊症ではない、妊娠しやすい人の場合、適切なタイミングでの1回のセックスで妊娠する確率は16~18%程度、半年間での累積妊娠率は70%程度と言われています。タイミング法は、絶対に妊娠できる確実な方法ではないことに注意しましょう。
タイミング法はどれくらい継続するべき?
タイミング法は長く続ければ絶対に妊娠できる方法ではありません。タイミング法を半年実施して妊娠しない場合は、医療機関と相談し、人工授精や体外受精などのより高度な治療に進むことが推奨されます。年齢や体の状態によっては、タイミング法は数回まで、もしくは実施せずに、高度な不妊治療に進んだ方が良い場合もあります。
意外な落とし穴も?タイミング法の注意点
タイミング法には始めてみて分かる意外な落とし穴があります。どのような注意点があるのか、そしてその対処法について解説していきます。
妊活中のセックスには不満がたくさん?
この調査によると、妊活中の20~40代の男女700人の内、86%が妊活のためのセックスに何かしらの不満/悩みを抱えていることが分かりました。疲れていたり、忙しかったり、タイミングが合わなかったり、相手を誘いづらかったりと、セックスに至るまでの過程に多くの問題があることが分かります。
上記以外にも、
- 相手がセックスに乗り気でなくて嫌だった/疲れた(17.7%)
- セックスに誘うのが自分ばかりで嫌だった/疲れた(16.3%)
- そもそもセックスが好きではないのでしたくなかった(8.1%)
- パートナーとセックスをしたくなかった(5.3%)
など、グラフ中の「性交が義務的になってしまい嫌だった」も含め、精神的なストレスも少ないくないことが分かります。
ちなみにほとんどの項目で、顕著な男女差はありませんでした。男性も女性も、妊活中のセックスに不満/悩みを抱えていることが分かります。このような妊活中のストレス・すれ違いが、不仲の原因にならないように注意しましょう。セックスへのやる気を回復させたいという方は、以下のコラムを参考にしてください。
<参考> 妊活中のやる気(性欲)低下への対処法
男性はEDと膣内射精障害に注意
タイミング法では、男性はEDと膣内射精障害にも注意しましょう。妊娠の可能性が高い日に、「今日は必ず膣内で射精しないといけない」と気負い、勃起や射精ができなくなる男性は本当に多いのです。そして一度EDや膣内射精障害を体験すると、そのトラウマで次のセックスでも失敗してしまい、遂にはセックスを避けるようになる場合も少なくありません。
このような負のスパイラルを避けるためには、とにかく気負わず、リラックスしてセックスに臨むことが大切です。ただ上手くいかない場合は、勃起薬やシリンジ法を試してみるのも良いでしょう。
〈参考〉 さまざまなEDの治療法
女性に性交痛がある場合
セックスで痛み(性交痛)を感じる女性は多く、これが原因でセックスが苦手な女性も少なくありません。
<参考>
性交痛への気づかい足りてる?男性も知ってほしい、性交痛への男女の認識の差
性交痛でストレスがある場合は、「潤滑ゼリー(膣用の潤滑剤)」の使用がオススメです。潤滑剤と精液を混ぜると、精子の運動は阻害されます。しかし、実際にセックスで潤滑ゼリーを使用しても、妊娠率は低下しなかったと報告されています[3]。潤滑ゼリーの使用に不安がある場合は、医療機関に相談するのが良いでしょう。
<参考>
性交痛の対策は、医薬部外品の潤滑ゼリー『モイストケアジェル』で
また、シリンジ法でセックスを回避する方法も有効です。
<参考>
シリンジ法まるわかり講座【妊活サポートシリンジパック「Seed in」】
まとめ:適切にタイミング法を実施してスムーズな妊活を
タイミング法は自宅でも実施できる妊活です。気軽に始められる反面、適切に実施しなかったり、タイミング法が向かないカップルでは、不適切な方法に時間をかけすぎると、妊娠までの時間やチャンスを無駄にしてしまうかもしれません。
また、長く続ければ誰でも妊娠できる方法でもありません。ぜひ適切に情報を把握し、うまく自分達の妊活に取り入れましょう。
【参考/出典元】
[1]Wilcox, Allen J., Clarice R. Weinberg, and Donna D. Baird.
“Post-ovulatory ageing of the human oocyte and embryo failure.” Human
Reproduction 13.2 (1998): 394-397.
[2]Brandes, M., et al. “Unexplained infertility: overall ongoing pregnancy
rate and mode of conception.” Human Reproduction 26.2 (2011): 360-368.
[3]Kaseki, Hiroshi, et al. “Indication of intravaginal insemination for
infertility treatment in couples with sexual dysfunction.” Reproductive
Medicine and Biology 20.2 (2021): 241-245.
聖隷浜松病院リプロダクションセンター センター長
今井 伸(医師)
■泌尿器科医 ■性機能専門医 ■生殖医学会生殖医療専門医
■性科学会認定セックス・セラピスト専門医
聖隷浜松病院リプロダクションセンター
<著者プロフィール>
TENGAヘルスケア 研究開発主任
牛場 栄之(うしば ひでゆき)
平成3年生まれ。大学および大学院では神経科学を専攻、2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当、その後現職。
製品開発のかたわら、皆さんに役立つ性や妊活の情報をお届けします!