2021.06.29

EDの診断は寝ながら行う?勃起力の診断方法とは

男性なら誰もが気になる「ED(勃起不全)」。しかし一口に「ED」と言っても、EDにはいくつかの種類があります。EDへの理解が深まれば、自分がなった際も上手く対処できるかもしれません。今回は、よくある勃起薬の話から一歩踏み込んだEDの知識を解説していきたいと思います。

目次

ED(勃起不全)には種類がある
 器質性のED
 心因性のED
 混合性のED
EDの診断は寝ながら行う?
 夜間勃起とは
 EDの診断方法①RigiScan
 EDの診断方法②PGE1の海綿体注射
 EDの診断は、労災の認定で必要?
 簡易的なEDのチェック方法
まとめ:原因を知ってEDに上手く対処しよう

ED(勃起不全)には種類がある

ED(Erectile Dysfunction)は、日本語では「勃起不全」と呼ばれ、「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか,または維持できない状態が持続または再発すること」と定義されています[1]。

EDは原因別に「器質性」「心因性」、そして両者が合わさった「混合性」に分類されます。まずは、この分類別の特徴を見ていきましょう。

器質性のED

「器質性」のEDは、陰茎の海綿体組織や血管、神経系などの異常が原因のEDです。男性は、心理的興奮とは関係なく勃起する場合がありますが(夜間勃起や朝勃ち)、器質性のEDの場合、体の機能に異常があるため、これらの勃起が生じないか弱くなります。

体の状態が原因なので、この原因を物理的に解決することで、EDが改善します。

心因性のED

「心因性」のEDは「機能性」EDとも呼ばれ、心理的な原因でEDになっている状態です。器質性のEDとは異なり、勃起をするための体の機能は正常なため、夜間勃起や朝勃ちは存在します。

ストレスや不安、集中できない、興奮できないといったことが原因となっているため、これらの要素を取り除くか和らげることで、改善が期待できます。

混合性のED

「混合性」のEDは、「器質性」と「心因性」の両者の原因が混在する状態です。EDの症例のほとんどは、この「混合性」であると言われています。したがってEDの分類は、「器質性が主要因のもの」、「心因性が主要因のもの」といったように行われます。

簡単にまとめると、EDには身体的原因と心理的原因が存在し、ほとんどの場合、その両者が原因となっています。

EDの診断は寝ながら行う?

勃起薬の処方時には質問票に回答するくらいで、詳しい検査や診断は行われませんが、実はEDには診断方法が存在します。

次は、EDの診断方法について解説していきます。

夜間勃起とは

睡眠のリズム レム睡眠 ノンレム睡眠

[2]より引用

診断の話の前に、「夜間勃起」について説明します。

男性には生理的な現象として、就寝中に勃起する「夜間勃起」が存在します。

そもそもヒトの睡眠はその深さによっていくつかのステージに別れており、浅い睡眠である「レム睡眠」と、それ以外の「ノンレム睡眠」に大別されます。睡眠中は上の図のように、約90分サイクルで、このレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返しています。

レム睡眠中は、体の状態が “副交感神経優位” になる関係で、陰茎が勃起します。これが「夜間勃起」という現象で、この「夜間勃起」が生じている状態で目が覚めるのが「朝勃ち」の正体です。

余談ですが女性の場合も、レム睡眠中は膣壁の血流量が増加し、性的興奮を覚えた際と同じ反応を示していることが報告されています[3]。

EDの診断方法①RigiScan

男性の夜間勃起は、身体的な勃起機能に異常がある場合、正常に起こりません。

つまりED患者では、

  • 夜間勃起がある ➡ 体は正常ななので心理的な原因(心因性)のED
  • 夜間勃起がない ➡ 体の異常(器質性)によるED

と大別されます。

この夜間勃起は『RigiScan Plus』(以下RigiScan)と呼ばれる機器によって測定されます。

RigiScanPlus ED 勃起不全 診断

RigiScanは図のように、本体から延びる2本のリングを陰茎の根本と先端に巻いた状態で使用します。電源をONにすると、モーターがリング内のワイヤーを巻き取ることで、陰茎の「周囲径」と「硬さを表す数値」が測定されます。これを就寝開始から翌朝の起床時まで行うことで、夜間勃起の有無を観測することができます。

夜間陰茎勃起のグラフ RigiScanPlus

[4]より引用

RigiScanで夜間勃起を測定すると、このようなグラフが得られます。

陰茎の先端(TIP)と根本(BASE)それぞれの、時間経過での硬度と周径の変化が表示され、正常であれば左上のグラフのように、規則的な変化が現れます。この陰茎の変化は、先程説明したレム睡眠に合わせて生じていると考えられます。

一方、左上以外の5つのグラフのように、変化が小さかったり、短いかったりする場合は、何かしらの器質的な異常が示唆されます。

実際に病院で検査する場合は、3日間の入院検査になり、3日分のグラフを観て診断が行われます。

EDの診断方法②PGE1の海綿体注射

RigiScanの測定で夜間勃起が確認されず、器質性のEDが疑われる場合は、次にPGE1の海綿体注射によって、異常がどこにあるかを確認します。

PGE1(プロスタグランジンE1)と呼ばれる薬剤は、陰茎の海綿体内に注射することで、海綿体内の血管を拡張させる作用があり、これによって強制的に血流が増加し、勃起状態が引き起こされます。

PGE1 陰茎海綿体注射

[1]より引用

このPGE1の注射では、勃起するために必要な血管機能が正常であれば勃起しますが、血管系に異常がある場合、不十分な勃起しか得られません。

つまり、PGE1で勃起しない場合は「血管系」の異常、勃起する場合は「神経系」の異常がEDの原因だと示唆されます。

ちなみにPGE1の海綿体注射は、EDの診断で使用する場合は保険適用となりますが、治療に使用する場合は保険診療外(自費診療)となります。ただ、海綿体注射によるEDの治療は欧米では普及している方法ですので、もし治療薬(バイアグラ等)の効きが悪いなどの場合は、治療としての使用を検討しても良いかもしれません。

海綿体注射は医師の指導の下で行う行為です。海綿体注射を希望される場合は勃起補助薬を処方してもらっている主治医に相談してみましょう。

EDの診断は労災の認定で必要?

これ以外にも、まだ詳細な検査がいくつかありますが、以上が主なEDの診断方法になります。

ここまで読んで「EDの診断って面倒臭そうだな」と感じた方も多いと思いますが、その通り、EDの診断は非常に大変です。

RigiScanの検査は、筆者も1晩だけ受けたことがありますが、広辞苑程のサイズの箱を太ももに装着し、更に陰茎にワイヤーが巻かれているという窮屈な状態で、寝なくてはなりません。

しかも、3日間の入院検査になるため仕事なども休まなければならず、更に費用も数十万円かかります。

このような検査なので、実施できる病院は、日本では数施設だけと言われています。

しかし、この検査が必須になる場面があり、それが「労災の認定」です。

例えば、交通事故などで陰茎を負傷してEDを訴えたとしても、他人からは陰茎の負傷が原因なのか、事故とは関係の無い心理的な原因なのか分かりません。このような場合に、前者であることを証明して労災認定を受けるために、RigiScanと海綿体注射での診断が必要だとされています。

ほとんどの方には無縁のはずですが、もしEDで労災認定が必要な場面に遭遇した際は、ぜひこのことを思いだしてください。

簡易的なEDのチェック方法

ここまで、EDの診断方法を説明してきましたが、最後に、自宅できる簡単なEDのチェック方法を紹介します。

それはズバリ、「朝勃ち」の有無の確認です。

夜間勃起の所で解説したように、「朝勃ちがある」=「夜間勃起がある」ということなので、十分な朝勃ちがあれば、身体的な勃起機能は正常だと言えます。

もし、何日も連続で朝勃ちが無かったり不十分な場合は、勃起機能が低下している可能性があります。勃起力を回復させたいのであれば、何かしらの対策が必要です。

一方、朝勃ちは十分あるのに、実際のセックスではEDになる場合、何かしら心理的な要因でEDになっている可能性があります。セックス中の不安やストレスに心当たりがある場合は、それらを取り除くようにしましょう。

まとめ:原因を知ってEDに上手く対処しよう

今回は、EDの分類と診断方法について解説しました。EDは原因別に、器質性、心因性、混合性に分類することができますが、実はどの分類でも勃起薬が有効で、治療にはまず勃起薬を使用することがほとんどです。しかし、勃起薬は服用時には効果がありますが、根本的な勃起機能を回復させることはできません。EDの原因や勃起の仕組みを理解することは、自分の勃起能力を末永く維持したり、メンテナンスすることに役立つかもしれません。

 

【参考/出典元】
[1]日本性機能学会/日本泌尿器科学会, ED診療ガイドライン [第三版], 2018
[2]日経BP, 睡眠負債は質でカバーできない 浅い睡眠にも意味がある, 2020
[3]Fisher, Charles, et al. "Patterns of female sexual arousal during sleep and waking: Vaginal thermo-conductance studies." Archives of Sexual Behavior 12.2 (1983): 97-122.
[4]金子茂男, 沼田篤, and 谷口成実. "夜間陰茎硬度周径同時連続測定装置 (RigiScanTM) 開発の経緯." 日本性機能学会雑誌= The japanese journal of Impotence Research 19.1 (2004): 1-7.

 

<この記事の監修>
福元メンズヘルスクリニック 院長
福元 和彦(医師)
■泌尿器科医 ■性機能学会専門医 ■抗加齢医学会専門医 ■排尿機能学会認定医
福元メンズヘルスクリニック

<著者プロフィール>
TENGAヘルスケア 研究開発主任
牛場 栄之(うしば ひでゆき)
平成3年生まれ。大学および大学院では神経科学を専攻、2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当、その後現職。
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