2021.08.31

なぜ乳首は感じるのか ~脳の活動(体性感覚野)編~

ヒトの性感帯は様々ですが、「乳首が感じる」という人は多いのではないでしょうか。しかし、なぜ乳首で快感を得られるのでしょうか。今回は、脳の活動に着目して理由を解説します。

目次

乳首が感じる割合
皮膚感覚と脳の活動
性器・乳首刺激中の脳活動
まとめ:性的快感の理解のために

乳首が感じる割合

まず、「乳首が性感帯だ」という人はどの程度いるのでしょうか。

2006年に男性148名(17~29歳)、女性153名(18~22歳)へ行われたアンケート調査では、「乳首/乳房の刺激で性的快感が得られる」と回答した割合は、男性で51.7%、女性で81.5%に上りました。一方、「乳首/乳房の刺激で性的快感が低下する」と回答した割合は、男性で7.5%、女性で7.2%でした[1]。

男女差はありそうですが、「乳首が性感帯だ」という人は多いことが分かります。

皮膚感覚と脳の活動

乳首が感じる理由の前に、そもそも、なぜヒトは皮膚への刺激を知覚できるのでしょうか?

当然ですが、皮膚への刺激も含め、全ての知覚は脳で生じています。

脳機能局在 乳首 感じる 性感帯

([2]より改変)

脳は部位によって異なる機能を担っており、触覚を担当している場所は「体性感覚野」と呼ばれます。

皮膚が刺激を受けると、その刺激が脊髄を通じて脳の反対側*の体性感覚野に伝わり、刺激として認知されます。

*例えば、右手への刺激はいわゆる左脳に伝わります。

体性感覚野 乳首 性感帯 感じる

([3]より引用)

更に、感覚を担当する体の部位に応じて、体性感覚野の中でも領域が分かれています。

こちらは、左脳の体性感覚野を後頭部側から見たときに、どの領域が体のどの部位を担当しているかを表した地図です。

例えば、唇が刺激を受けると、地図上の「唇」と記された領域の神経細胞が活動します。

実際の体のサイズと比較して、手や顔の担当領域が広いことが分かります。

これは、手や顔の触覚が他の部位(脚や体幹など)よりも優れており、その分多くの神経細胞の活動が必要になるためです。

性器・乳首の刺激による脳活動

では、性器や乳首への刺激で、体性感覚野はどのように活動するのでしょうか。

先程の地図から、性器への刺激では脳の中央(右脳と左脳の間)辺り、乳首への刺激では「体幹」と書かれた辺りの活動が予想されます。

実際に、性器と乳首刺激時の脳活動を測定した研究が、2013年にアメリカのラトガース大学で行われました。

被験者は女性11名(23~56歳)で、クリトリス、膣壁、子宮頸部、乳首をそれぞれ自己刺激した際の脳活動が、MRIで測定されました。

クリトリス 膣 子宮頸部 ポルチオ 脳 fMRI 体性感覚野

([4]より改変)

まず、クリトリス、膣壁、子宮頸部への刺激では、体性感覚野の「性器」領域(白矢印の部分)が活動が確認されました。

これは、体性感覚野の地図からの予想と矛盾しません。

乳首 脳 fMRI 体性感覚野

([4]より改変)

一方、乳首への刺激では、体性感覚野の地図で予想された「体幹」領域に加え、「性器」領域の活動も確認されました。

クリトリス 膣 子宮頸部 乳首 脳 fMRI 感じる 性感帯

([4]より改変)

こちらは、クリトリス、膣壁、子宮頸部への刺激での、各活動の重なり具合(上)と、被験者3名で、そこに更に乳首への刺激での活動を重ねた図です(下)。

体での位置も近い、クリトリス、膣壁、子宮頸部の活動部位が近いことは予想通りですが、乳首での活動部位も、それらに重なっていることが分かります。

以上の結果から、乳首が性感帯である理由の一つは、「乳首への刺激が、性器への刺激と同じ脳部位を活性化させるからだ」と推測できます。

今回は女性での研究結果を紹介しましたが、男性の乳首刺激でも同様の結果が確認されています[5]。

まとめ:性的快感の理解のために

乳首が感じる理由の一つを、脳の体性感覚野の活動から解説しました。しかし、乳首が感じる人とそうでない人や、感じる度合いによって脳活動に差があるのか、そもそもなぜ乳首への刺激で「性器」領域が活動するのか、その他の性感帯ではどのようになるのかなど、疑問は尽きません。

しかも、性的快感はその時々のシチュエーションで多様に変化しますが、そこには体性感覚野以外の様々な脳の活動も、複雑に関与しているはずです。

「快感」を理解するために、今日の科学はあまりにも力不足です。今後の研究の積み重ねで、快感への理解が深まり、人類がより気持ち良くなれる日が来ることを期待しましょう。

 

【参考/出典元】
[1]Levin, Roy, and Cindy Meston. "Nipple/breast stimulation and sexual arousal in young men and women." The journal of sexual medicine 3.3 (2006): 450-454.
[2]脳神経外科疾患情報ページ, 脳の機能
[3]Wikipedia, 中心後回
[4]Komisaruk, Barry R., et al. "Women's clitoris, vagina, and cervix mapped on the sensory cortex: fMRI evidence." The journal of sexual medicine 8.10 (2011): 2822-2830.
[5]Allen, Kachina, et al. "Male urogenital system mapped onto the sensory cortex: functional magnetic resonance imaging evidence." The journal of sexual medicine 17.4 (2020): 603-613.

 

<この記事の監修>
福元メンズヘルスクリニック 院長
福元 和彦(医師)
■泌尿器科医 ■性機能学会専門医 ■抗加齢医学会専門医 ■排尿機能学会認定医
福元メンズヘルスクリニック

<著者プロフィール>
TENGAヘルスケア 研究開発主任
牛場 栄之(うしば ひでゆき)
平成3年生まれ。大学および大学院では神経科学を専攻、2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当、その後現職。
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