包茎手術体験談 ~世界一の遅漏が語る、20年越しの後悔~
「包茎」といえば、「陰茎のサイズ」や「早漏・遅漏」と並び、多くの男性の悩みの一つです。ただ、性の悩みについては、間違った情報をきっかけに、取返しのつかない過ちが起こるケースも少なくありません。今回は「包茎」を悩んでいる男性に向け、TENGAヘルスケア取締役 佐藤雅信の、包茎手術の体験談を紹介します。
TENGAヘルスケア取締役
佐藤 雅信(1982年生まれ)
2005年、創業初年度のTENGAに大学を休学して入社。
TENGA EGGなどのヒット商品を開発し、海外事業担当取締役などを歴任。「性の悩みのない社会」を目指して2016年にTENGAヘルスケアを設立、同年より現職。
マスターベータソン(通称:オナニー世界選手権)耐久時間部門の二連覇チャンピオン(2008, 2009年)
目次
包茎手術で世界一の遅漏に
学生時代 包皮へのコンプレックス
悪徳クリニックでの包茎手術
包茎手術で感度低下、そして後悔
安易な包茎手術は絶対にやめてほしい
専門医のコメント
包茎手術で世界一の遅漏に
ーー今日は佐藤さんが体験した「包茎手術」について伺っていきます。意気込みを聞かせてください。
佐藤:もう待っていました、という感じですね。自分は20歳で「包茎手術」をしたのですが、それが人生の転機だったと考えていますので。
ーー「包茎手術」がどのような転機になったのですか?
佐藤:「包茎手術」のトラブルには、傷ができたり、組織が壊死したり、高額な請求をされたりと色々あるのですが、自分の場合、「ペニスの性感帯を失ったこと」がとても大きかったですね。
元々重度の遅漏だったのですが、快感を得づらいペニスになったことで、よりイケなくなりまして。膣内射精なんて夢のまた夢、みたいな体になってしまったんですよ。
ーーでもイキづらい体になったおかげで、マスターベータソン(耐久時間部門*)を2回も制覇できたんじゃないんですか?
*マスターベーションで勃起し続けられる時間を競う競技
佐藤:そうですね、それは多少ありますね。「世界一の遅漏になった」と言えば笑えるんですが、失ったものを考えると、「包茎手術」をしたことは非常に後悔しています。
「自分が味わった後悔を、未来の若者にはしてほしくない」という想いが、TENGAヘルスケアの設立や、今の自分の活動のきっかけになっています。
なので、自分の体験談が、包茎で悩む男性達の一助になれば本望です。
学生時代 包茎へのコンプレックス
ーーでは、包茎手術に至った経緯を聞かせてください。包茎の種類(真性包茎、仮性包茎、カントン包茎)は何だったのですか?
佐藤:(手術前の)最終的には仮性包茎でしたが、中学生の頃までは真性包茎でしたね。
ーー自分で剥いたということですか?
佐藤:はい、自分でむきましたね。
そもそも、幼少期や小学校低学年の頃は、親が剥いてくれていたのか、自分で遊びで剥いていたのか分かりませんが、普通にむけていたんですよ。
それが3,4年生の頃になると剥かなくなったからか、亀頭と包皮が癒着して、気が付いたら真性包茎になっていたんです。
ーー真性包茎の頃、日常生活で困ることはありましたか?
佐藤:包皮が “小籠包の先端” のような形で固まっているので、尿道を露出させることができないんですよ。包皮の先端に辛うじて穴は空いていたので、そこからおしっこは出せたのですが、そこら中に飛び散ってしまって、トイレが汚れてしょうがなかったですね。
真性包茎の人って、亀頭と包皮の間に汚れが溜まって、亀頭包皮炎になるケースも多いのですが、幸い自分は亀頭包皮炎にはならなかったですね。幼少期から、股間にシャワーを当てるのが好きだったので、その水圧で包皮の中を綺麗に保てていたからかもしれません。
ーー真性包茎でもそれほど困ってはなかったんですね
佐藤:困ってはなかったですね。
ただ、小学校5,6年生になると、中途半端に性の知識がついてくるというか、「剥けなきゃいけない」と思い始めてしまったんです。
それ以降、お風呂などで少しずつ剥いていって、中学2年生の頃には完全に剥けて、亀頭を露出できるようになりました。
いやー、剥いている当時は凄く痛くて、本当に最後は無理やりで、ビリっと音がするくらいでした。
ただ、むけたときは嬉しかったですね。
ーー剥けて(仮性包茎になって)「めでたし、めでたし」とはならなかったのですよね?
佐藤:そうなんですよ。
剥けたのは良いけど、皮が伸びて余っていて、勃起しても亀頭が1 mmも出なかったんです。当時はこれが本当に嫌だった。
それと、これは体質だと思いますが、自分は恥垢(いわゆるチンカス)が多くて、剥くたびに臭いが漂ってしまい、嫌でしたね。
あと、真珠様小丘疹(しんじゅようしょうきゅうしん)があって、それも嫌でした。真珠様小丘疹というのは、カリの周囲に発生する細かいイボのことで、尖圭コンジローマと見た目は似ていますが、完全に無害なただの生理現象なんですよ。ただ自分の中では、「見た目が気持ち悪くて嫌だな」と思っていました。
爪切りやカッターで切り落とそうともしましたが、上手くいきませんでしたね。
この辺りが悩みというか、コンプレックスでした。
実害は無かったのですが、当時の中学生高校生の童貞の心理的に、「先々セックスすることを考えると、この状態は良くないな」と思っちゃったんです。
ーー実際セックスした際はどうでしたか?
佐藤:初セックスは大学入学の前後だったんですが、そのときは包茎よりも、セックスで射精できなかったことがショックでしたね。不適切なマスターベーションをずっとしてきたので、膣の刺激では快感を得られませんでした。
ただ繰り返しセックスする内に、少しずつ快感を得られるようになってきて、20歳になる直前の頃には、セックスの頻度も凄く増えていました。
ただ、それがきっかけで今度は包皮からの臭いが気になり始めました。洗わずにセックスすることもあったので、「相手に悪いな」という心境ですね。
大学生になってバイト代も入るようになり、この時期から「包茎手術」を考えるようになったと思います。
悪徳クリニックでの包茎手術
ーーいよいよ「包茎手術」に踏み切るわけですね。決断当時の心境を教えてください。
佐藤:結構軽いノリでしたね。「二十歳の記念で、皮でも切ってみるか」的な。
手術に踏み切るのに、特段のきっかけは無かったのですが、先程言った臭いのことや、思春期以降ずっと抱えていたコンプレックスの積み重ねが、手術という方法を選択させたのだと思います。
ーー手術するクリニックはどのように調べたのでしょうか?
佐藤:インターネットですね。
都内の雑居ビルの、怪しげなクリニックでした。
今思えば「何でそんな所にしてしまったのか」と不思議ですが、多分軽いノリで選んでしまったのだと思います。
ーーそれで、まずは話を聞きに行ったのですね。
佐藤:いやいや、もうその日に手術する気満々で行ってました。予算の15万円を握りしめて。
「これで皮とおさらばできるぞー!」って(笑)
で、手術台に乗せられてペニスも出して、「いよいよ皮を切るぞ」ってときに、執刀医からおかしなことを言われました。
- 「15万円の方法では手術の跡が残る。跡が残らない綺麗な方法だと+〇〇万円」
- 「真珠様小丘疹は性病だから切除が必要。切除するのに+〇〇万円」
- 「包茎だから亀頭が育っていない。亀頭を大きくしたいなら、ヒアルロン酸を注射した方が良い。+〇〇万円」
といった具合で、あれよあれよの内に、総額80万円までなってしまいました。
普通に考えれば一度手術は取りやめ、持ち帰って検討するべき所だったのですが、下半身裸で手術台に乗せられた二十歳の自分に、正常な判断能力はありませんでした。
おまけに、「15万円のコースだとこうなるよ(写真)」と脅され、もう80万円での手術を選ばざるをえない状態でした。
そして、手術が始まりました。「包茎手術のリスク」の説明は、当然一切無しでした。
ーー酷いクリニックだったのですね。お金は払えたのですか?
佐藤:80万円の貯金は無かったので、術後に親に電話しました。
状況を話すと、母「そんな体に生んでしまってごめんね」と、差額は親に払ってもらいました。今思えば、「申し訳ないことをしたな」という気持ちです。
ただ当時は、念願だった「包茎手術」を行って、術後は有頂天でしたね。
元カノに、「ついに一つ上の男になったぜ!」とメールする始末。
包茎手術で感度低下、そして後悔
ーー術後の変化はいかがでしたか?
佐藤:術後は勃起するたびに痛かったのですが、痛みは2,3ヵ月で治まりました。
あと縫合が裂けないようにするために、術後1ヵ月間はマスターベーションもセックスも禁止だったのですが、当然我慢できませんでした。
1週間程度でとちらもしてしまって、それで傷が悪化したと思います。
まあこれは自分の責任なのでしょうがないです。
ただ、セックスしてみたら感覚が半端なく鈍くなっていて、これには愕然としました。
鈍くなった原因は明らかで、自分の一番の性感帯たった「包皮小帯(いわゆる裏筋)」を切除してしまったからです。
ーーセックスの感覚は、どれくらい鈍くなったのですか?
佐藤:術前に得られていた快感を100だとすると、術後は10位ですね。そもそも術前でも他人よりだいぶ鈍かったと思うので、もう「何も感じないレベル」まで感覚を失ってしまいました。
ーーそのときの心境はいかがでしたか?
佐藤:ショックでしたね。「取り返しのつかないことをしてしまった」と。
トイレで自分のペニスを見るたびに、「俺のペニスはもう単なる放尿用の管になってしまったんだな...」と、悲しくなったのを憶えています。
またセックスだけでなく、当然マスターベーションでの快感も、ほとんど失ってしまいました。
TENGAで働いているくらいなので、自分は幼少期からマスターベーションが大好きだったのですが、何というか、人生の一番楽しいことを失った気分でした。
膣内射精障害もますます酷くなり、当時のパートナーとは離別、恋愛や性に対する自信やポジティブな感情は、全て失ってしまいました。
ーー術後もう20年になりますが、今の状態はいかがですか?
佐藤:ペニス感覚は徐々に戻ったものの、現在でも快感は術前の半分もありません。この20年の間に子供も生まれましたが、膣内射精ができないので、妊活でもとても苦労しましたね。
ーー快感を取り戻すために、何かできることはありましたか?
佐藤:当然、手術をしたクリニックに文句を言いに行こうとしました。術前のリスク説明が一切無かった訳ですから。
ただ、術後しばらくしてそのクリニックは無くなり、連絡もつきませんでした。もう笑っちゃうくらい、悪徳ですよね(笑)
結局誰にも文句を言うこともできず、親のお金まで使って、泣き寝入りでした。
ーー「包茎手術」をして、良かったことはありましたか?
佐藤:チンカスが少なくなったことは良かったですね。
あと真珠様小丘疹を切除して、見た目が綺麗になったこと自体は良かったと思っています。
ヒアルロン酸注射は意味無かったですね。亀頭が大きくなった実感は、まったくありませんでした。
こうして振り返ると、良い点も確かにあったのですが、それでも「快感を失ってしまった後悔」の方が何万倍も大きいですね。
軽い気持ちで「包茎手術」に踏み切ってしまった、当時の選択を本当に悔やんでいます。
20年経った今でも、後悔しない日はありません。
安易な包茎手術は絶対にやめてほしい
ーー当時の手術前の自分や、現在包茎に悩んでいる人に伝えたいことはありますか?
佐藤:「本当に十分な情報収集をしたか?」「手術のリスクは把握したか?」と、問いかけてあげたいですね。
自分のように、ろくに調べもせず、軽いノリで「包茎手術」を受けることは、絶対にやめて欲しいと思います。
とにかく、適切な情報を知ることが重要です。
ーー「包茎手術」に関する適切な情報は、何を参考にすればよいですか?
佐藤:「包茎手術」を検討している人は、「包茎手術」の専門クリニックではない、一般的な泌尿器科を受診して、中立的な意見をもらってください。
一度手術したら元の状態には戻れませんので、大げさとは思わず、2軒以上の医療機関に相談して、納得できるまで情報収集することをオススメします。
オンライン診療もあるので、悩んでいる方は試しに一度相談してみても良いでしょう。
あと、知っておいて欲しいのは、「包茎手術の多くは商売だ」ということです。
現に、「包茎手術」などでGoogle検索をすると、「包茎手術」を行っているクリニックの広告が大量に出てきます。つまり「包茎手術」は儲けの種で、クリニックは「包茎手術」を受けさせたいわけです。
全てがそうだとは言いませんが、そのようなクリニックが100%患者の立場で、リスクの提示も含め、適切な治療方法を検討してくれるかは疑わしいでしょう。
ーーインターネットの情報も参考になりますか?
佐藤:「包茎」含め、性の悩みに答えるWEBサイトがいくつかあるので、それらを参考にするのは良いと思います。
TENGAヘルスケアが運営している、中高生向けの性教育サイト『セイシル』でも、「包茎」について取り上げているので、参考になると思います。
ただし、「包茎」に関するWEBサイトの中には、「包茎手術」のクリニックが運営しているサイトもあるので注意が必要です。
これらのサイトは、「包茎は良くないよ」と刷り込んで、「包茎手術」に誘導している場合もあるので、鵜呑みにしてはいけません。
ーー「包茎手術」で後悔する人を減らすためには、何が大切だと思いますか?
佐藤:やはり思春期からの適切な性教育でしょうね。
国民生活センターの発表によると、美容医療に関する男性からのトラブル相談は、2012年~2016年の5年間で2,131件あり、そのうち「包茎手術」に関する相談は1,092件と、半分以上を占めています[1]。
([1]より引用)
年代別では、20代のトラブルが最多で、10代もそこそこの数です。
この中にはきっと、自分のように、十分な知識を持たずに「包茎手術」を受けて後悔している人も、少なくないと思います。
また、不要な「包茎手術」に踏み切ってしまう理由は、思春期での「包茎は良くない」という刷り込みも大きいと思います。
そもそも、「仮性包茎」という言葉は日本にしか存在しません。海外には「真性包茎」と「普通の状態」の2種類しかなく、「仮性包茎」は「普通の状態」に含まれる、というか、そんな言葉も概念も存在しないのです。
これは、「仮性包茎」という言葉が、当事者のコンプレックスをえぐるために、商業的に作られたものだということ物語っています。
小中高校生への性教育が充実化し、
「包茎、特に仮性包茎は普通であり、恥ずかしがる必要はない」
「真性包茎でトラブルが生じていたり、カントン包茎の場合以外、手術の必要はない」
「包茎手術にはトラブルも多い」
ということをしっかり教えられると、「包茎手術」のトラブルは減ると考えています。
ーー最後に、「包茎手術」について佐藤さんの理想を教えてください。
佐藤:「不要な包茎手術」というものが、社会から無くなることが理想ですね。
繰り返しになりますが、
「手術をしてよいのは、真性包茎でトラブルが生じている場合、カントン包茎の場合の二つだけ」
「包茎は恥ずかしいことではない」
ということを、全ての人に一般教養として知ってもらいたいと思います。
ただ個人の自由がありますから、美容目的の「包茎手術」をどうしてもやりたい人は、やっても良いと思います。
ただその場合、トラブルが起こらないようにきちんと情報提供がなされ、全てのリスクを納得した上で実施されるべきです。
医療機関の倫理観と、「包茎手術」を問題視する社会の声も必要でしょう。
専門医のコメント
医学的見地から、仮性包茎に手術が不要であることは言うまでもなく、手術が必要な包茎というのはかなり限られます。真性包茎であれ、嵌頓包茎であれ、多くの場合は包茎手術をせずに治すことが可能だからです。
生まれたての赤ちゃんは、みんな真性包茎です。子供でも大人でも、少しずつ包皮をむいて戻すという行為を日々繰り返すことで、包皮の狭いところ(包皮輪)が広がって包皮がむけるようになります。
とはいえ、真性包茎と嵌頓包茎は保険診療で包茎手術が可能ですので、この際一皮むけた男になりたいと思う気持ちもわかります。手術をする場合、術後トラブルにも対応可能な、入院施設のある病院の泌尿器科が安心です。さらに術前に、「非勃起時には包皮が少し余るようにする(勃起したときに皮膚がつっぱらないようにする)」「包皮内板を切除する(ツートンカラーにならないようにする)」「包皮小帯を残す」といった説明があれば、術後の仕上がりも期待できるでしょう。
SRHケアクリニック静岡院長
聖隷浜松病院 リプロダクションセンター
今井 伸(医師)
■泌尿器科医 ■性機能専門医 ■生殖医学会生殖医療専門医 ■性科学会認定セックス・セラピスト専門医
聖隷浜松病院リプロダクションセンター
【参考/出典元】
[1]独立行政法人国民生活センター, 美容医療サービスにみる包茎手術の問題点
<著者プロフィール>
TENGAヘルスケア 研究開発主任
牛場 栄之(うしば ひでゆき)
平成3年生まれ。大学および大学院では神経科学を専攻、2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当、その後現職。
製品開発のかたわら、皆さんに役立つ性や妊活の情報をお届けします!