2021.07.31

新型コロナウイルス ワクチン接種の精子への影響

日本でも新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでおり、2021年の夏からは、基礎疾患のない20~40代にも接種が始まろうとしています。この年代の妊活中の人にとって、ワクチンによる妊活への影響は気になるのではないでしょうか?

今回は、男性の精子を中心に、ワクチンの妊活への影響について解説したいと思います。

目次

新型コロナのワクチン接種が精子に影響する可能性は低い
新型コロナウイルスの感染で精子は減少する
妊活中の女性もワクチン接種が推奨される
まとめ:妊活中でもコロナワクチンは接種がオススメ

新型コロナのワクチン接種が精子に影響する可能性は低い

コロナワクチンの精子への影響は、アメリカのマイアミ大学で行われた研究で報告されています[1]。

この研究では、ファイザー製ワクチン(BNT162b2)とモデルナ製ワクチン(mRNA-1273)を接種した45名に対し、接種前と、2回目の接種の約70日後に精液検査が行われました。

被験者は18~50歳(平均28歳)で、ファイザー製ワクチンが21名、モデルナ製ワクチンが24名でした。

この45名の、ワクチン接種前後の精液所見を比較したところ、各数値の有意な減少は確認されませんでした。

ワクチン接種前 ワクチン接種70日後 P value
精液量(ml) 2.2 (1.5 - 2.8) 2.7 (1.8 - 3.6) .01
精子濃度(100万匹/ml) 26 (19.5 - 34) 30 (21.5 - 40.5) .02
運動率(%) 58 (52.5 - 65) 65 (58 - 70) .001
総運動精子数(100万匹) 36 (18 - 51) 44 (27.5 - 98) .001

数値は中央値(±4分の1)([1]より改変)

数値はむしろ有意に改善していましたが、この変化量は、精液検査で通常見られる個人差の範囲内であり、改善するとは結論付けられないとされました。

この研究からは、コロナワクチンの接種が精子に悪影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。

ただしこれは、ファイザー製とモデルナ製ワクチンでの検討だったため、アストラゼネカ製ワクチンなどの場合は不明です。

新型コロナウイルスの感染で精子は減少する

一方、新型コロナウイルスの感染では、精子の顕著な減少が報告されています[2]。

これはイランで行われた、新型コロナウイルスへ感染した患者84名と、同年代の健常男性105名の精液所見を比較した研究です。

コロナ感染患者では、退院後24時間以内にまず1回目の精液検査が行われ、その後10日間隔で6回精液検査が行われました(合計7回検査)。健常男性でも同じく、10日間隔で7回検査が行われましたが、1回目は任意のタイミングでした。

結果、コロナ感染患者は健常男性よりも、基本的なパラメーター(精液量、精子濃度、運動率、精子数、形態正常率)の全てが有意に低く、退院60日後の検査でもほぼ回復が見られませんでした。

新型コロナウイスる患者 精子 精液所見 悪化

([2]より改変)

 

この他、精液中の酸化ストレスや炎症のレベルを表す数値も、優位に高いことが確認されました。

つまり、コロナウイルスに感染して発症すると、精液所見は大きく悪化し、症状回復後も少なくとも60日間は精液所見は悪いままだと言えます。

ちなみにインフルエンザでは、感染後3ヵ月間は精液所見が悪化し、その後回復したという報告があります。

精巣での精子の製造サイクルは60~75日程度と言われているため、60日以降で精液所見が回復するかどうか、今後のさらなる検討が待たれます。

妊活中の女性もワクチン接種が推奨される

日本産科婦人科学会からは、妊活中や妊娠中の女性も、ワクチン接種を推奨する指針が示されています。

詳しくは以下の資料を参考に、必ず主治医と相談のうえ、接種を検討してください。

<参考>
COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する⽅へ 第2版

まとめ:妊活中でもコロナワクチンは接種がオススメ

新型コロナウイルスの感染や、ワクチン接種による妊活の影響は、まだ完全には明らかになっていません。ただし、今日までの報告を考えると、ワクチンが精子に悪影響を与える可能性は低く、逆に感染した際の悪影響は大きいことが予想されます。

 

【参考/出典元】
[1]Gonzalez, Daniel C., et al. "Sperm Parameters Before and After COVID-19 mRNA Vaccination." JAMA (2021).
[2]Maleki, Behzad Hajizadeh, and Bakhtyar Tartibian. "COVID-19 and male reproductive function: a prospective, longitudinal cohort study." Reproduction 161.3 (2021): 319-331.

 

聖隷浜松病院リプロダクションセンター センター長
今井 伸(医師)
■泌尿器科医 ■性機能専門医 ■生殖医学会生殖医療専門医 ■性科学会認定セックス・セラピスト専門医
聖隷浜松病院リプロダクションセンター

<著者プロフィール>
TENGAヘルスケア 研究開発主任
牛場 栄之(うしば ひでゆき)
平成3年生まれ。大学および大学院では神経科学を専攻、2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当、その後現職。
製品開発のかたわら、皆さんに役立つ性や妊活の情報をお届けします!


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