流産とは|考えられる原因や種類、その後の生活について
妊娠は非常に喜ばしいことです。その反面、流産に対する不安もよぎるのではないでしょうか。
流産の診断を受けたり可能性が高くなったりすると、女性は自分自身を責めてしまうでしょう。ただし、流産は「起こそう」と思ってなるものではありません。もちろん、あなたのせいでもありません。
しかし、普段からの行動に気をつけることも大切です。この記事では、医師監修のもと、流産の種類や流産した際の過ごし方について解説します。
【記事監修】
芥川修 医師
- 日本産婦人科学会認定医
- 母体保護法指定医
- 胎児心エコー認証医
- 日本産科婦人科遺伝診療学会認定医
- 新生児蘇生法インストラクター(NCPR)
- Da Vinci surgical system ライセンス
- FMFライセンス
- JCMELS
- 日本周産期新生児医学会暫定指導医
目次
流産とは
流産とは、妊娠の早い時期に赤ちゃんが亡くなってしまうことです。妊娠22週(赤ちゃんが子宮の外では生きていけない週数)より前に妊娠が終わることをすべて流産と呼びます。
また、流産は稀なことではなく、医療機関で確認された妊娠の15%前後が流産といわれています。さらに、妊娠した女性の約40%が流産しているとの報告もあり、多くの女性が経験していることといっても過言ではありません。
なお、妊娠12週未満の早い時期での流産が、流産全体の8割以上を占めています。
流産で考えられる原因
流産の原因にはさまざまなものがありますが、ほとんどのケースは「染色体異常」です。染色体異常とは、胎児の染色体に何らかの異常がある状態を指します。これにより正常な発育ができず、結果として流産に至ることが多いといわれています。
お母さん側に問題があったというケースは少なく、ほとんどの流産は染色体異常が原因です。そのため、流産を経験した方は自分を責める必要はありません。
染色体異常以外で考えられる原因は、以下で解説します。
胎児構造異常
胎児の身体や内臓に構造的な異常がある場合、正常な発育が難しくなります。これには、心臓や脳の発育異常などが含まれます。
こうした異常は予見することが難しく、ほとんどのケースで自然発生的に起こるため、親の行動とは無関係といえます。
胎盤後血腫
胎盤の後ろに血腫(血の塊)ができると、胎児への血液供給が妨げられ、流産のリスクが高まります。これが起こる原因は明確ではありませんが、自然発生的な場合が多いです。
お母さんが注意を払っても防ぎようのないことが多いため、流産を経験した方は自分のせいだと考える必要はありません。
頸管無力症
子宮頸管が通常よりも弱く、早期に開いてしまうことが原因で流産が発生することがあります。この症状は妊娠中期に多く見られますが、医療的な対策が可能です。
頸管無力症を指摘された場合でも、自分を責める必要はありません。医療チームと協力し、最適な治療を受けることで、次の妊娠に向けた準備ができます。
絨毛膜下血腫
胎児を包む絨毛膜の下に血が溜まる状態で、これが原因で流産に至ることがあります。絨毛膜下血腫と告げられた場合でも、自然に解消する場合もあります。
原因は多岐にわたり、明確に特定することは難しいでしょう。
子宮形態異常
子宮の形や構造に異常がある場合、胎児が正常に成長できないことがあります。これには、子宮中隔や双角子宮などの形態異常が含まれます。
多くの場合、これらの異常は先天的なものであり、避けることはできません。医療技術の進歩により、子宮形態異常でも正常な妊娠を維持できるケースも増えています。
母体の異常・感染症
母体に感染症やその他の異常がある場合、それが胎児の成長に悪影響を及ぼし、流産の原因となることがあります。これには、重度の感染症や持病などが含まれます。
適切な医療管理でこれらのリスクを最小限に抑えることが可能ですが、完全に防ぐことは難しい場合も多いです。
流産の種類
流産にはさまざまな種類があり、それぞれに異なる特徴と原因があります。理解を深めるために、以下で代表的な流産の種類について説明します。
流産は、人工的に引き起こされるか、自然に引き起こされるかで種類が分かれます。人工流産とは、医療的または社会的理由に基づいて行われる妊娠中絶のことです。母体の健康や社会的な状況を考慮し、母体保護法指定医によってのみ施術が許可されています。
自然流産とは、人工的な介入なしに自然に起こる流産のことを指します。流産後に手術が必要かどうかは関係なく、全ての自然発生的な流産が含まれます。
以下では、具体的な流産の種類について紹介します。
稽留流産
稽留流産とは、胎児の死亡が確認されても、母体に出血や腹痛といった自覚症状がない状態をいいます。この状態は通常、医療機関の診察で初めて確認されます。
治療法には、子宮内容除去手術を行う場合と、経過を見ながら胎児が自然排出されるのを待つ場合があります。
進行流産
進行流産とは、母体からの出血があり、子宮内容物が外に出てきている状態をいいます。一般的に想像される「流産」の状態です。
進行流産はさらに、「完全流産」と「不全流産」に分類されます。
完全流産
完全流産とは、子宮内容物がすべて自然に排出された状態をいいます。通常、出血や腹痛は治まり、経過観察で対処できることがほとんどです。
ただし、必要に応じて子宮収縮止血剤を投与することもあります。
不全流産
不全流産とは、子宮内容物の排出がある状態で、一部が子宮内に残存しているケースのことをいいます。
出血や腹痛が続く場合が多いため、子宮内容除去手術の対象となることもあります。
感染流産
感染流産とは、細菌などの感染が原因で起こる流産のことです。母体に深刻なリスクが伴うため、慎重な管理と治療が必要です。
流産の診断後の流れとは
流産の診断後の対応は、個々の状況に応じて異なります。一般的には、「自然な排出を待つ」「手術を行う」の2つの選択肢があります。
自然排出 | 流産が進行中の場合、体が自然に胎児を排出するのを待つ。一般的に出血や腹痛を伴い、数日から数週間かかることも。 |
子宮内容除去手術(VA:吸引法) | 子宮内の組織を取り除くための手術で、麻酔を使用し、短時間で終了する。 |
手術は、出血が多い場合や感染のリスクがある場合に選択されることが多いです。
また、次回妊娠時の赤ちゃんの赤血球への影響を予防するため、免疫グロブリン注射が行われる場合もあります。特に、Rh陰性の血液型を持つ母親に対して行われ、次回妊娠時の赤ちゃんを守るための重要な措置です。
流産後の次回妊娠までの期間と妊娠成功率には関係がないため、医学的には流産後に長期間避妊する必要はありません。
妊娠初期の流産を完全に防ぐことは難しいため、ご自身を責めないようにしてください。必要に応じてカウンセリングを受けることも有効です。医師と相談し、安心して次のステップに進みましょう。
妊娠初期に注意したい流産の兆候
妊娠初期の流産の兆候として、「少量の性器からの出血」と「子宮収縮によって起こる腹痛」が挙げられます。流産が始まると、鮮血もしくは暗赤色の出血が見られ、子宮の収縮により腹痛が起こります。
これらの兆候を感じた場合、早急に医療機関を受診することが重要です。
しかし、妊娠初期の流産は進行が早いため、日常的に体調の変化に気を配り、異変を感じたらすぐに相談することが大切です。
流産を少しでも予防する方法は
流産を防ぐためには、毎日の習慣を見直すことが重要です。適切な生活習慣を心がけることで、流産のリスクをできる限り回避できます。
以下のポイントに注意して、健康的な妊娠期間を過ごしましょう。
重いものを持たない
重いものを持つと、全身の筋肉に力が入り、特に腹筋に大きな負担がかかります。これにより、子宮が圧迫されて子宮収縮が誘発されることがあります。子宮の収縮はお腹の張りや出血を引き起こし、早産や流産の原因となる可能性があります。
特に妊娠後期には注意が必要ですが、妊娠初期でも無理をしないよう心掛けましょう。なお、妊娠初期は子宮がまだ大きくなっていないため、重いものを持つことが即座に流産につながるわけではありませんが、慎重な行動が重要です。
参照:働きながら安心して妊娠・出産を迎えるために|厚生労働省
食生活に気を配る
妊娠中は、食事内容にも十分注意が必要です。偏った食生活を続けると、胎児の成長に必要な栄養が不足しやすくなります。一方で、妊娠後期に栄養過多になると、母体の体重増加に直結し、肥満となるリスクが高まります。
母体の肥満は、流産や早産のリスクを高めるため、バランスの取れた食事を心掛けましょう。適切な栄養バランスを保つことで、母体と胎児の健康を維持できる可能性が高くなります。
参照:Q&A|妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針|国立健康・栄養研究所
喫煙しない
妊娠中の喫煙は、胎盤への血流量を低下させ、胎児の発育に重大な影響を及ぼします。具体的には、以下のようなリスクがあります。
- 胎児奇形
- 低出生体重児
- 胎児死亡
- 新生児死亡
また、流産や早産の危険性も高まります。これらのリスクを避けるため、妊娠中の喫煙は絶対に避けるべきです。さらに、妊娠を考え始めた段階から禁煙を開始することが重要です。禁煙することで、母体と胎児の健康を守り、安全な妊娠期間を過ごすことができます。
アルコール類を避ける
妊娠中にアルコールを摂取すると、胎盤を通じて胎児にアルコールの成分が届きます。未熟な胎児の肝臓ではアルコール成分を上手く代謝できないため、「胎児性アルコール症候群」や「胎児性アルコール・スペクトラム障害」といった先天性異常を引き起こしやすくなります。
さらに、妊娠中期(16〜27週)から妊娠後期(28週〜)における飲酒は、流産や早産のリスクを高めることが分かっています。これらのリスクを避けるために、妊娠が判明した時点からアルコールの摂取は避けるようにしましょう。
参照:妊婦のアルコール、カフェインの摂取は、生まれてくる子にどのような影響を及ぼすか
性行為はコンドームをつける
安定期と呼ばれる妊娠16週以降になると、性行為を再開する方もいるでしょう。しかし、細菌感染によって起こる「絨毛膜羊膜炎」は、流産のリスクが高くなる可能性もあります。
このため、性行為を行う際には、コンドームの装着が重要です。また、その他の感染症を防ぐためにも、外性器の清潔を保つことが大切です。これらの対策を講じることで、母体と胎児の健康を守り、妊娠期間を安全に過せるでしょう。
参考:絨毛膜下血腫/ 感染性流産による流産|日本産婦人科医会
運動しすぎない
妊娠後期になると動きにくくなり、運動不足に陥りがちです。しかし、過度な運動は転倒リスクを高めるほか、母体に大きな負担をかけることになります。
妊娠後期の運動は、ゆったりとしたストレッチや速度の遅いウォーキングなど、無理のないものを選ぶことが大切です。適度な運動は体調維持に役立ちますが、過度な負担を避けるために、自分の体調と相談しながら行いましょう。
無理な姿勢にならない
妊娠後期は、腰痛や筋肉痛が現れやすい時期です。身体の痛みを予防するためには、普段の姿勢に注意することが重要です。同じ姿勢で過ごすことや、長時間の立ち仕事は避けるようにしましょう。特に立ちっぱなしの姿勢はお腹の張りを促し、流産につながりやすくなります。
また、前かがみの姿勢もお腹を圧迫するため避けるべきです。就寝時にはシムス位(左側臥位)で寝ると、身体への負担が軽減され、快適に過ごすことができます。
高温での長時間の入浴を避ける
熱いお湯に長時間浸かることは控えましょう。長時間の入浴は「脳貧血」や「立ちくらみ」の原因となり、転倒のリスクを高めます。妊娠後期の転倒は、思わぬケガや早産につながる可能性があるため、特に注意が必要です。
入浴はぬるめのお湯に短時間浸かるよう心掛けましょう。これにより、体への負担を軽減し、安全にリラックスできます。
流産を正しく理解し、不安を和らげよう
流産とは、妊娠初期に赤ちゃんが亡くなってしまうことを指し、誰にでも起こりうるとされています。流産の主な原因は「染色体異常」であり、お母さん側に問題があるケースは少ないため、自分を責めないようにしてください。
流産後の生活においては、次回妊娠までの期間と妊娠成功率に関係がないため、長期間の避妊は必要ありません。心身のケアを大切にし、必要に応じてカウンセリングを受けることも有効です。医師と相談しながら、安心して次のステップに進んでください。