不妊治療とは?方法・流れから金額まで解説

「不妊治療」という言葉は、妊娠を考えたことのある方の多くが、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

妊娠する確率は、年齢を重ねるにつれて下がるといわれています。結婚年齢が上がってきている日本では、妊娠に不妊治療が必要なカップル(夫婦)の割合も年々増加しています。そのため、不妊治療は想像よりも身近な話です。

そこでこの記事では、不妊治療の方法や流れ、気になる金額まで詳しく解説します。

 

不妊の定義は?男女別で見る原因

不妊症は「カップル(夫婦)が一定期間に避妊せず、性交しても妊娠ができない場合」のことを指します。

実は、不妊の原因は男性・女性どちらか一方にあるとは限りません。世界保健機関(WHO)によると男性のみに原因が24%、女性のみに原因が41%、男女両方に原因があるのは24%とのことです。

 

 

ここからは男女それぞれにおける不妊の原因を見てみましょう。

女性における不妊の原因

女性における不妊の原因は、大きく分けて4つです。

  1. 排卵障害
  2. 卵管・子宮の異常
  3. 免疫異常と内分泌の問題
  4. 原因不明のケースもある

 

排卵障害

排卵障害とは、女性の卵巣で正常に排卵できない状態を指します。卵子がうまく育たなかったり、排出されないことが原因で起こります。ホルモンの乱れやストレスなどが影響しています。

黄体機能不全・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)・甲状腺疾患などの疾患も原因の一つとして考えられます。

 

黄体機能不全とは…?
排卵後に黄体から分泌されるプロゲステロンが十分に分泌されないことで、子宮内膜が妊娠に適した状態に成熟しない症状。

 

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは…?
排卵障害を起こす原因となる症状。通常は排卵に向けて卵胞が育つところが、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合には卵胞の成長が止まってしまい、小さい卵胞(嚢胞)が卵巣内に残る病気です。

 

卵管・子宮の異常

卵管・子宮の異常が起こるのは細菌感染や癒着による卵管閉塞や、ポリープ・筋腫が主な原因です。

卵子は卵管の中で精子と出会うため、閉鎖された状態では受精ができません。この場合は、卵管の手術で開通を試みたり、体外受精を検討するケースが多いです。

また、子宮内膜が薄すぎる、厚すぎる場合は妊娠の妨げになります。子宮内癒着、内膜ポリープ、内膜増殖症が認められる場合には、先に子宮内膜の治療を行います。

 

抗精子抗体がある

女性全員ではありませんが、免疫反応として精子の動きを妨げる「抗精子抗体」ができる場合があります。何らかの免疫異常によって頸管粘液や子宮、膣や卵管などで分泌されることにより、精子の通過や動きを妨げられて妊娠までに至りません。抗体の量によって、人工授精やARTを検討します。

抗精子抗体があるかは、血液検査によって調べられます。

 

原因不明のケースもある

不妊症の約11%が原因不明といわれており、不妊かもしれないと考えて不妊検査を受けても体内に異常なしで、不妊の原因が明確に見つからないケースもあります。

原因不明の不妊症は、男女ともに年齢が上がるほど割合が高くなるともいわれているため、結婚年齢が上がっている日本では今後も原因不明の不妊が増加すると推定できます。

原因がわからないことから、自然妊娠の可能性もゼロではありません。

ただし、不妊期間が1年以上ある方や、女性で35歳以上の場合には、一般不妊検査以上の精密検査を実施してみることがおすすめです。

 

男性における不妊の原因

男性における不妊の原因は、大きく分けて2つあります。

  1. 造精機能障害
  2. 性機能障害

 

造精機能障害

造精機能障害は、遺伝的要因・環境要因・病気などが原因で精子の生成に必要な過程で起こります。男性における不妊の原因として最も多いといわれています。

また、造精機能障害の約半分が「特発性の造精機能障害」と呼ばれる原因不明のケースです。

 

性機能障害による勃起・射精の能力低下

性機能障害は、性的な活動や起勃・射精の能力が低下または困難になることを指します。血流障害・神経障害・ホルモンバランスの乱れなどの心理的要因が主な原因です。

不妊の原因だけでなく、パートナーシップへの影響や心理的ストレス・生活の質の低下を引き起こします。

 

不妊治療とは?どんな方法がある?

不妊の原因は男女さまざまな原因が考えられます。そのため、不妊治療は妊娠を希望するカップル(夫婦)ごとに抱える不妊の原因に基づいた治療を受ける必要があります。

不妊治療として主に行われる5つの方法は、以下の通りです。

  1. タイミング法
  2. 排卵誘発法
  3. 内視鏡手術
  4. 人工授精
  5. 生殖補助医療(体外受精・顕微授精)

 

タイミング法

タイミング法は、妊娠する可能性の高いタイミングで性交渉を行なう治療方法です。超音波検査や血中のホルモン値によって排卵日が予測できます。

医師の正確な判断のもと、タイミングに合わせた性交渉を試みます。医師による指導のみで特別な治療はないため、ほかの治療方法に比べて金銭的負担は少ないといえるでしょう。

 

排卵誘発法

排卵誘発法は、その名の通り排卵を誘発させて卵胞(卵子)を発育・増加させる治療方法です。

排卵障害がある方に使用します。複数排卵が起こることがあり、多胎妊娠の可能性も上がります。

 

内視鏡手術

不妊の原因に合わせた手術(腹腔鏡手術・子宮鏡手術・卵管鏡手術)を行い、妊娠の可能性を高めます。腹腔鏡手術は入院が必要ですが、子宮鏡手術、卵管鏡手術は施設によっては日帰りで受けられます。

 

人工授精

人工授精とは、排卵日に合わせて男性側の精液を女性の子宮内に直接注入する治療方法です。AIHとも呼ばれています。

精液を人工的に注入しますが、薬の投与や手術など特別な治療は行わないため、自然妊娠に近い治療方法です。主に精子の減少症や精子無力症や性機能障害など、男性側に不妊の原因がある場合に行われます。

痛みは少なく、治療時間も短時間です。

 

生殖補助医療(体外受精・顕微授精)

生殖補助医療とは、妊娠を目的として卵子と精子を受精させる治療の総称です。主に、体外受精・顕微授精などが挙げられます。

体外受精は、体外で精子と卵子を受精をさせた後に、培養した受精卵を子宮内に戻して妊娠を試みる治療方法です。受精卵を直接子宮内に戻すため、ほかの治療方法に比べて妊娠確率は高くなります。

 

不妊治療に初めて行く時期は?不妊治療の流れは?検査から治療まで

不妊治療では、初めて行くタイミングに決まりはありません。しかし、不妊治療は治療方法によって治療期間も異なるため、早期の受診をおすすめします。そのため、カップル(夫婦)のどちらかが「不妊症かも?」と思い始めたときが、初めての受診のタイミングといえます。

また、初めての受診は誰でも緊張するものですよね。そこで、初めての受診の際の流れと、検査や治療について解説します。知識をつけて心の準備をしておくことで、不安を軽減していきましょう。

 

ステップ1.問診など含む初診

不妊治療の初診時に関するおおまかな流れです。

  1. 来院・受付(問診表の記入)
  2. 看護師・スタッフによるコンサルティング(通院方法や治療の流れ・検査・料金説明など)
  3. 医師による問診(必要であればここで超音波検査や血液検査などを行う)
  4. 医師と今後の治療方針を相談後、今後のスケージュールをたてる
  5. 会計

 

病院により初診時の流れも異なりますので、疑問点・不安点がある場合は予約時に問い合わせてみましょう。

また、初診時には以下の持ち物を用意しましょう。

  • 健康保険証(夫婦で受診する際はどちらも必要)
  • 基礎体温表(つけている方のみ)
  • 紹介状(あれば)
  • 血液検査や精液検査データなど(病院でもらっている場合)

こちらも病院により必要な持ち物が異なるため、不安な方は事前に問い合わせておくと安心ですよ。

 

ステップ2.不妊検査

不妊治療を開始するためにはまず、検査が必要です。初診時の問診により、適切な検査が行われていきます。また、男女それぞれに異なる検査項目があります。

不妊治療で行われる主な検査項目は以下の通りです。

女性の不妊検査は、月経期間や排卵日に合わせて実施します。

月経中の不妊検査
ホルモン検査 血液にて女性ホルモン値を知ることができます。

 

月経〜排卵期間の不妊検査
子宮卵管造影 卵子と精子の通り道である卵管の通りをチェックします。
卵胞チェック 卵胞(卵子が入っている袋)が体内で育っているかをチェックします。
頚管粘液検査 精子の通過を助けたり、細菌の侵入を防ぐ役割をしたりする頚管粘液の量の変化を調べます。

 

排卵直前の不妊検査
フーナーテスト 排卵直前の妊娠する確率が高い期間に性交を行い、その後に女性の頚管粘液をして運動精子を観察します。

 

排卵後の不妊検査
排卵検査 経膣超音波(エコー)検査で排卵が起こっているかをチェックします。

 

一方で男性の不妊検査は、大きく性液検査と泌尿器科的検査の2つが挙げられます。

男性の不妊検査の種類は女性に比べて少ないですが、不妊の原因ごとに適切な検査をします。

 

精液検査 精液検査精子の受精能力(精子の数や運動率など)を調べる検査です。不妊治療を始めるにあたって初めの段階で必須の検査です。

 

泌尿器科的検査 超音波検査 エコーを使い陰嚢・精索・精巣を観察します。生殖器の状態や病気の有無をチェックします。
ホルモン検査 採血をし、精子生成のために必要なホルモン値であるかをチェックします。
染色体・遺伝子検査 無精子症の場合に行うことが多い検査です。採血をした後に、染色体の数の異常、精巣から精子が採取できる可能性があるかをチェックします。

 

それぞれどのような検査か確認し、実施してください。

 

ステップ3.原因に基づく治療

一口に「不妊症」といっても、その根本にはカップル(夫婦)ごとにさまざまな原因があります。そのため、上記で紹介した検査に加えて原因に基づいた治療が必要です。

そこで、不妊の原因と主な治療方法をまとめました。

不妊の原因 治療方法
排卵障害 排卵誘発→タイミング法→人工授精→体外受精
卵管・子宮異常 体外受精(場合により手術→タイミング法)
免疫・内分泌異常(頸管因子) 人工授精→体外受精
原因不明不妊 タイミング法または体外受精
造精機能障害(男性) タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精
性機能障害(男性) 薬物療法・人工授精・体外受精・顕微授精

独自の判断で不妊の原因を決めつけずにきちんと検査を行い、不妊の原因に合った治療方法を取り入れれば、妊娠のしやすさを高められるでしょう。

 

不妊治療にかかる期間はどれくらい?

不妊治療は治療方法によりかかる期間が異なります。仕事や日常生活と両立しながら病院へ通う必要があるため、大まかな期間は知っておきたいところです。

治療方法と治療にかかる期間を把握し、スケジュールをたてておきましょう。

結論、不妊治療には平均して2年間程度はかかるとされています。症状や利用する治療の方法によって、3ヶ月〜2年と大きく開きがあります。

なお、不妊治療に入る前に基本検査や精密検査を行いますが、この検査だけでも約1〜2ヶ月ほどは要します。

 

不妊治療にかかる金額は?保険適用の場合

不妊治療を始めるにあたって、要素の一つとしてあげられるのが金銭面的負担です。これまで不妊治療は保険適用外の治療がほとんどで、一般的に不妊治療は高いイメージを持っている方も多いはずです。

しかし、令和4年4月から不妊治療における基本治療が全て保険適用になりました。

 

一般不妊治療

治療方法 健康保険 治療費 令和4年4月以降
タイミング法 適用 約数千~2万円/回 変更なし
排卵誘発法 適用 約数千~2万円/回 変更なし
人工授精 適用外 約1~3万円/回 新たに保険適用(自己負担額3割)

生殖補助医療

治療方法 健康保険 治療費 令和4年4月以降
体外受精 適用外 約20~60万円/回 新たに保険適用(自己負担額3割)
顕微授精 適用外 約30~70万円/回 新たに保険適用(自己負担額3割)
男性不妊手術 適用外 約25万円~40万円 新たに保険適用(自己負担額3割)

体外受精・顕微授精では、令和3年度までの助成金と同様に女性にのみ年齢・回数に制限がありますのでこちらも確認しておきましょう。

年齢制限 初めての治療開始時点の年齢 回数の上限
治療開始時において女性の年齢が43歳未満であること 40歳未満 1子ごとに通算6回まで
40歳以上43歳未満 1子ごとに通算3回まで

参照:選択する未来2.0 – 内閣府

 

不妊検査や治療を受けたことがある夫婦の割合はどれくらい?

記事の冒頭では、不妊症の定義として「カップル(夫婦)が一定期間に避妊せず性交しても妊娠ができない場合」を指すとお伝えしました。

では、不妊検査や治療を受けたことがある夫婦の割合はどれくらいなのでしょうか。

  • 不妊を心配したことがある夫婦:39.2%(夫婦全体の約2.6組に1組)
  • 不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦:22.7% (夫婦全体の約4.4組に1組)

近年の日本の課題でもある晩婚化に伴い、「不妊治療」は今後妊娠を検討しているカップル(夫婦)にとって切り離せないものとなりそうです。

参照:不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック

 

不妊治療に関する女性からのよくある悩み・質問

不妊治療について、不安なポイントや疑問を抱える方は多いでしょう。そこで最後に、不妊治療に関するよくある質問を紹介します。

 

不妊治療に伴う女性の負担は大きいですか?

不妊治療の際に体の変化を感じるのも女性、妊娠〜出産までをも女性が経験するため、男性と比べると実際に心身共に負担は大きいかもしれません。しかし、不妊治療はカップル(夫婦)2人の問題であり、カップル(夫婦)2人で行うものです。男女共に知識をつけて、一緒に不妊治療について考えていくことが理想的ですね。

また、WHOの報告によると、実際は不妊の原因の約半数が男性にあることも分かっています。女性だけの問題じゃないことを理解し、妊活ジェンダーギャップをなくしていきましょう。

男性の不妊症に関してもっと知りたい方は、こちらの記事もチェックしてみてください。

参考:不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック

 

不妊治療は痛いですか?

不妊治療では、少なからず痛みが伴ってしまうものです。しかし、実施する検査・治療方法で痛みの程度は異なるため、人によっては痛みを感じないこともあるでしょう。

タイミング法・人工授精は治療に関しての痛みはほとんどありません。ただし、治療に合わせて行う血液検査の注射針を刺すときに、超音波検査のカテーテルを腟に挿入する際に軽い痛みが生じる場合があります。検査自体は短いため、痛みも一瞬で済むでしょう。

体外受精と顕微授精でも、血液検査と排卵誘発剤の投与のための注射の際に、痛みが生じる場合があります。排卵誘発剤の投与に関しては、「自己注射」と「通院注射」の2つの方法があるため、負担の少ない方を選択できます。

また、体外受精では「採卵」をする際に、膣から卵巣へ細い針を刺して卵胞から卵子を取り出す施術があります。こちらは痛みが伴いますが、多くの病院で麻酔をかけるなどの対策をしています。

不妊治療ではどんな検査・治療方法でどんな痛みがあるのか、知っておくだけでも不安や緊張が軽減されるかもしれません。

 

不妊治療とは医療のサポートで妊娠を成立させる治療

不妊治療では、どうしても金銭面や心身の負担を感じてしまうことでしょう。しかし、「不妊症」に悩んでいるカップル(夫婦)にとって妊娠を成立させるために必要不可欠な治療です。

不妊の原因や治療方法など正しい知識を身につけて、2人で考えていくことが大切です。

また、不妊治療には年齢や体の状態により多くの期間を要する場合もあります。中々妊娠できず心配な気持ちが増している方は、不妊治療も視野に入れてみてください。