精液検査の「基準値」とは?数値の意味を解説
精液検査を受けた経験があるカップルなら、「精子濃度」や「運動率」といった言葉は聞いたことがあると思います。では、その数値がいくつ以上なら良いかはご存じでしょうか?「基準値」を超えていれば良いわけではありません。今回は、精液検査の「基準値」の意味を解説していきます。
この記事では2021年版の基準値について、紹介します。2010年版との比較は以下の記事参照。
<参考>精液検査基準値比較 2021年版と2010年版
基準値は検査した人全体の下位5%の値
[1]より改変
こちらは、WHOが発表した精液検査の各項目のパーセンタイルのデータです。データの対象者(精液提供者)は、過去12ヵ月以内にパートナー(女性)が妊娠した男性なので、妊娠させる能力のある男性達のデータだと考えてください。見方としては、各被験者の結果を低い方から並べて、例えば精液量なら、下から5%目の人の数値が1.4
ml、10%目の人の数値が1.8 ml、逆に上から5%目(下から95%目)の人の数値が6.2
mlとなります。
よく精液検査で、「自然妊娠するために必要な数値(基準値)」として用いられるのが赤枠の数値なのですが、これは下5%の数値ということになります。
つまり、この基準値は全体から見れば非常に低く、これを超えたからといって「精液検査の結果が良かった」と考えるのは、全く間違った認識だと言えます。
日本人の平均値
平均 |
中央値 |
WHOの基準値 |
|
精液量(ml) | 3.1 |
3.0 |
1.4 |
精子濃度(個/ml) | 1億500万 |
8400万 |
1600万 |
総精子数(個/射精) | 3億1700万 |
2億3900万 |
3900万 |
運動率(%) | 67 |
66 |
42 |
正常形態率(%) | 9.8 |
8.5 |
4.0 |
[2]より改変
こちらは、日本人の平均値と中央値のデータです。データの対象者は、妊娠8~12週の女性のパートナー(男性,
792名)です。WHOの基準値と比較すると、数倍以上になっている項目もあります。「精液検査で数値が高かった」と言えるのは、この平均値や中央値を超えてからだと言えるでしょう。
妊活の方法は総運動精子数を目安に
精液検査には様々な項目がありますが、総合的な精子の質は「総運動精子数」を見るのが良いでしょう。
総運動精子数は「1回の射精精液中の運動精子の総数」を意味しており、「精子濃度」×「運動率」×「精液量」で計算されます。3つの項目の掛け算なので、これらの項目がバランス良く高い必要があります。
総運動精子数は、不妊治療の方法を選択する目安になります。医療機関や本人達の状況によって差はありますが、おおよそ以下のように考えられています。
<総運動精子数と不妊治療の目安>
- 2000万個以上:タイミング法
- 1000万個以上:人工授精
- 1000万個未満:体外受精または顕微授精
まとめ:精液検査の結果はあくまで目安
今回は精液検査の数値について解説しました。「平均値」や「中央値」、治療方法の目安となる総運動精子数を紹介しましたが、これらの数値を超えていれば絶対に安心かと言えば、それも間違いです。精液検査には今回挙げた項目の他に、精子のDNAの状態を表す「DNA断片化指数(DFI)」や、精子の動き方の検査も存在します。これらの結果も妊娠に影響します。そもそも、精子の質が良くても妊娠しない場合もあれば、低くても妊娠する場合もあります。精液検査の結果はあくまで目安と考え、妊活では状況や期間に応じた適切な方法を選択するようにしましょう。
【参考/引用元】
[1]WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen,
Sixth edition, 2021
[2]Iwamoto, Teruaki, et al. “Semen quality of fertile Japanese men: a
cross-sectional population-based study of 792 men.” BMJ open 3.1
(2013).
聖隷浜松病院リプロダクションセンター センター長
今井 伸(医師)
■泌尿器科医 ■性機能専門医 ■生殖医学会生殖医療専門医
■性科学会認定セックス・セラピスト専門医
聖隷浜松病院リプロダクションセンター
<著者プロフィール>
TENGAヘルスケア 研究開発主任
牛場 栄之(うしば ひでゆき)
平成3年生まれ。大学および大学院では神経科学を専攻、2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当、その後現職。
製品開発のかたわら、皆さんに役立つ性や妊活の情報をお届けします!