妊娠・出産にかかる費用は?払えない不安は制度利用で解決する?

妊娠はとても喜ばしいことです。産まれてくる赤ちゃんとの生活をイメージして胸が躍ることでしょう。その一方で、「妊娠・出産にかかる費用はどれくらい?」と不安な気持ちを抱いてる方も少なくありません。

妊娠・出産にかかる一般的な費用や、国やお住いの自治体で実施している制度を理解し利用できれば、少しでも不安を軽減できるでしょう。

この記事では、妊娠から出産にかかる費用の目安や具体的な内容について紹介します。ぜひ参考にしてください。

妊娠から出産にかかる費用は約72〜100万円

妊娠から出産にかかる費用は、一般的に約72~100万円です。この金額には、妊婦検診・分娩費用・入院費などが含まれています。妊娠判明~出産までの約10カ月間でここまでの費用がかかるとなれば、経済的な負担が大きいと感じてしまうのも当然です。

【妊娠から出産にかかる主な費用】

費用項目 金額(目安)
妊婦検診(14回を想定) 約7〜15万円
妊娠悪阻に関する受診・入院費 約5〜20万円
出産費用(正常分娩) 約50万円
マタニティ・ベビー用品 約10〜15万円

妊娠・出産費用は原則健康保険の適用外

妊娠・出産費用は原則、健康保険の適用外とされています。妊娠・出産は病気やケガとみなされないことが理由として挙げられます。

よって、正常分娩での出産は健康保険・民間の医療保険は適用されず、全額自己負担になります

しかし、「被用者保険」や「国民健康保険」などの公的医療保険加入者であれば、出産育児一時金などの公的補助がいくつか受け取れます。公的補助制度に関しては後ほど詳しく解説します。

なお、異常分娩(帝王切開・吸引分娩など)での出産は医療行為が伴うため、健康保険が適用されます。健康保険が適用されると、自己負担額は3割です。

参照:厚生労働省「国民健康保険の給付について」

制度を活用すると自己負担費用は抑えられる

妊娠から出産は約72~100万円と高額な費用がかかります。

そもそも、なぜこんなに費用がかかるのでしょうか。主な理由は4つです。

  • 妊婦健診費用
  • 妊娠悪阻による受診・入院費用
  • 出産時の分娩・入院費用
  • マタニティ・ベビー用品の購入費用

妊娠・出産にかかる費用は、健康保険の適用外です。そのため、1〜3の費用に関しては自己負担となり高額な費用がかかります。しかし、公的補助制度を活用すれば、自己負担額を大幅に抑えられます。

ここからは、妊娠・出産にかかる費用の詳しい内訳と、公的補助制度の活用方法を解説します。妊娠・出産にかかる費用について正しい知識をつけて金銭面の負担・不安を軽減しましょう。

妊娠中・出産準備にかかる費用は約22〜50万円

妊娠から出産にかかる費用は約72〜100万円です。では、その内訳を各項目ごとに、詳しくみていきましょう。

妊婦健診にかかる費用は7〜15万円

妊婦健診は平均して約7〜15万円の費用がかかります。この金額の中には、

  • 超音波検査(エコー)
  • 血液検査
  • 子宮けいガン検査

などの必要な検査費用も含まれています。

厚生労働省では、「標準的な妊婦検診の例」として、14回分の検診とそのスケジュールを提示しています。しかし、受診回数や問診内容によって、多少の金額の差が出てくるでしょう。

また、妊婦検診費用においては、公的支援制度があります。多くの自治体で実施されているのは、妊婦健診費用を補助する妊婦健康診査受診票(クーポン券)の配布です。指定された回数分の健診費用が助成されます。しかし、助成の内容や回数が異なるため、事前に確認することが大切です。

参照:妊婦健診|厚生労働省

妊娠悪阻での受診・入院費用は約5〜20万円

妊娠初期のマイナートラブルである「つわり」が重症化すると「妊娠悪阻」と呼ばれます。強い吐き気・おう吐や体重減少、脱水症状を引き起こします。症状が重症化すると病院への受診や入院が必要です。

通常、妊娠は病気ではないとされているため、妊娠でおこる「つわり」は健康保険外です。そのため、病院への受診や入院となった場合、かかる費用は約5〜20万円です。

しかし、重度のつわりで「妊娠悪阻」と医師が判断すれば、保険適用になり自己負担額は3割になります。また、長期入院などで医療費が高額になった場合は高額療養費制度も合わせて申請することで、一定額を超えた医療費の一部が払い戻しされます。公的支援制度利用して、実質的な負担をできるだけ軽減させましょう。

マタニティやベビー用品の費用は約10〜15万円

マタニティ・ベビー用品にかかる費用の目安は、約10〜15万円です。

マタニティ・ベビー用品は人により必要な物が異なるため、「これを必ず買わなければいけない!」というわけではありません。そのため、必要最低限のそろえたい物をまとめたので、参考にしてみてください。

マタニティ用品は、妊娠により変化するおなかや体系に合った衣類や、出産後の産じょく期~授乳期に使用するものです。

【マタニティ用品】

マタニティウエア おなかが大きくても着られるズボン・ワンピース・タイツなど
マタニティ下着 妊娠中のおなかやバストに負担のないブラ・ショーツ
マタニティパジャマ 入院中や授乳にも使えるパジャマがおすすめ
マタニティベルト 妊娠中におなかや腰をサポートするベルト(腹帯)
授乳服・ブラジャー 授乳のしやすい横あき・前あきなどの洋服・ブラジャー
ボディケアグッズ 妊娠線を予防するクリーム・オイル
産じょくショーツ ウエストや股部分が開閉可能なもの

この記事で紹介するベビー用品は、赤ちゃんが産まれる前に最低限準備しておきたいものです。

【ベビー用品】

ベビーウエア 肌着・カバーオール・ロンパース・靴下・スタイなど
おむつ 新生児用のもの
おしりふき 必要であればおしりふきケース・おしりふきウォーマー
ベビーカー 退院・検診時に使用
チャイルドシート 退院・検診時に使用
ベビーキャリア 抱っこひも・スリングなど
お風呂グッズ ベビーバス・ベビーソープ・湯上りタオル・ガーゼ
ベビーケアグッズ ガーゼ・保湿ローション、爪切り、ブラシ、体温計など
授乳グッズ 哺乳びん・搾乳器・消毒セットなど

マタニティ・ベビー用品にかかる費用の負担を少しでも抑えるためのポイントです。

  1. 一度に全てそろえようとせずに必要になった時に買う
  2. チャイルドシートやベビーカーなどの高額または使用時期が限定されるモノならレンタルも検討する
  3. 公的支援制度を利用して費用をまかなう

主な制度は以下の通りです。

  • 出産育児一時金
  • 出産手当金
  • 児童手当
  • 乳児手当

そのほかにも、自治体ごとに実施している制度があるため、事前に情報収集をして申請しておくといいでしょう。

出産費用(正常分娩)は約50万円前後

妊娠・出産にかかる費用のなかでも、最も高額なのが出産(入院も含む)費用です。

厚生労働省は、費目別出産費用の状況調査を平成24年度・令和4年度に行いました。

主な費用の内訳

  • 入院料
  • 分娩料
  • 新生児管理
  • 保育料
  • 検査・薬剤料
  • 処置・手当料
  • 室料差額
  • 産科医療補償制度
  • その他

このなかの合計金額の調査結果では平成24年度が416,728円、令和4年度では482,294円と116
%も増加しています。

参照:厚生労働省「出産費用の見える化等について」

出産費用は都道府県で異なる

出産費用は都道府県によっても異なります。*2先程と同じ資料を参考に都道府県ごとの出産費用の違いを見てみましょう。

以下は、令和4年度の全施設での正常分娩による出産費用の合計金額です。

エリア 出産費用(平均値)
全国 482,294
北海道 424,520
東京都 605,261
大阪府 467,491
広島県 467,299
熊本県 361,184

出産費用が最も高い東京都と最も安い熊本県では、244,077円の差があります。全国平均にしても482,294円と、やはり出産費用は高額でしょう。

参照:厚生労働省「出産費用の見える化等について」

出産費用は病院の環境で異なる

出産費用は、利用する病院によっても費用が異なります。

出産ができる施設の種類と違いは、以下の通りです。

運営 医療費 設備 出産費用(令和4年)
公的病院 政府・自治体 比較的安価 最新の医療設備 約46.3万円
私立病院 民間組織 高い 最新の医療設備 約50.6万円
診療所 個人・小規模法人 安価 設備・人材は小規模 約47.9万円

令和4年度の調査では、上記全ての施設での平均出産費用は、約48.2万円でした。

参照:厚生労働省「出産費用の見える化等について」

帝王切開などの分娩条件によっては保険適用も

ここまで、正常分娩での出産は健康保険・民間の医療保険は適用外とお伝えしてきました。しかし、帝王切開などの異常分娩では、条件によって健康保険が適用される場合があります。

健康保険が適用されることで、手術費用や入院費用の自己負担額が軽減されます。さらに、費用の合計次第では高額療養費制度の申請も可能です。

また、前置胎盤や早産・妊娠高血圧症候群などの合併症が発生した場合も、医療保険の対象となることがあります。妊娠中に何らかの異常が発生した場合は、保険適用の可否を確認しておきましょう。

妊娠・出産費用を少しでも安く抑える方法

出産後は赤ちゃんとの新生活において、さまざまな出費が重なることでしょう。また、子育ては継続してお金がかかるものです。そのため、妊娠・出産費用を少しでも抑えられるに越したことはありません。

そこで、妊娠・出産費用を少しでも抑える以下3つの方法について詳しく解説します。

  1. 公的病院で出産する
  2. クレジットカードで支払う
  3. 入院時は個室を希望しない

公的病院で出産をする

公的病院で出産をすれば費用を抑えられます。公的病院は政府・自治体が運営しているため、医療費が比較的安価です。

また、妊娠・出産に関する公的支援も多く実施されています。また、最新の医療設備やサービスも充実しているため、安心して出産できるでしょう。

クレジットカードで支払う

妊娠・出産にかかる費用をクレジットカードで支払うことで、一時的に出費を抑えられます。
クレジットカードを利用すると、分割払いやリボ払いを選べるため、大きな額を一度に支払う必要がなくなります。これにより、経済的な負担の軽減、費用の分散が可能です。

入院時は個室を希望しない

入院時は個室を希望しないことも、妊娠・出産費用を抑える手段の一つです。通常、入院費は大部屋(相部屋)を基準に設定されています。個室はプライバシーの確保や面会のしやすさが魅力的です。しかし、個室を選択することで室料の差額が発生します。

多くの病院では、大部屋・個室のどちらでも医療サービスに違いはありません。そのため、妊娠・出産費用を少しでも抑えたい場合は、大部屋の利用をおすすめします。

妊娠・出産費用が高くて払えない…活用したい制度5選

最後に、「妊娠・出産費用が高くて払えないかも…」と心配しているあなたへ、ぜひ活用したい制度を5つ紹介します。

  1. 妊婦健診費の助成
  2. 出産一時金
  3. 高額療養費制度
  4. 医療費控除
  5. 傷病手当金

妊婦健診費の助成

妊娠したら、妊婦健診を受けることになります。通常であれば14回ほど病院に通いますが、もちろん毎回費用がかかります。健診費用はトータルで約7〜15万円です。

しかし、妊婦健診費用はお住いの自治体が助成してくれる制度があり、助成額は1回の健診で約4000~1万円です。妊娠確定後、母子手帳と一緒に妊婦健康診査受診票(クーポン券)が配布されます。このクーポン券を病院の窓口に提出することで、助成を受けられます。

出産育児一時金

出産育児一時金は、加入している健康保険から支給される一時金です。これまで、支給額は42万円でしたが2023年4月から50万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関での出産だと488,000円)に増額されました。

出産育児一時金の受け取り方法は、以下の2つです。

  1. 公的医療保険から医療機関に直接支払う「直接支払制度」
  2. 後日申請で指定した口座での受け取り

分娩・入院費と同じくらいの額が受け取れるため、積極的に利用したい制度です。

高額療養費制度

高額療養費制度は、医療費が一定額を超えた場合に、その超過分が返金される制度です。この制度は、主に入院や手術などの高額な医療費負担を軽減するために設けられている制度です。

出産においては、妊娠悪阻や切迫早産での長期入院、帝王切開などの異常分娩の際に高額療養費制度が活用されます。通常であれば、一度医療機関で支払った後に、申請を通してから後日還付金を受け取れます。

医療費控除

医療費控除とは、1年間に支払った医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合、超過分を所得税から控除できる制度です。妊婦健診・切迫早産や妊娠悪阻による入院費、通院時の交通費などもその対象です。

必ず領収書を保管しておき、確定申告の際に必要な書類をそろえて申告しておきましょう。

傷病手当金

傷病手当金は、病気やケガで働けずに仕事を休んだときに手当金が支給される制度です。妊娠・出産時にも適用されることがあります。例えば、妊娠中に切迫早産で安静を指示されたり、入院が必要になったりした場合に、傷病手当金で減少した収入を補えます。

傷病手当金を申請するためには、健康保険の加入・医師の診断書や勤務先からの証明書が必要です。

妊娠・出産費用は50〜100万円が目安  制度を活用して費用を抑えよう

妊娠から出産までにかかる費用は、50〜100万円が目安です。

この中には、妊婦検診・出産費用・マタニティ・ベビー用品などが含まれています。本来であれば、妊娠や出産は病気ではないため健康保険が適用されません。そのため、妊娠・出産は経済的な負担が大きいと感じやすいです。

しかし、公的支援制度を活用することで、費用の自己負担を大幅に軽減できます。また、制度により条件や申請方法は異なります。事前に確認しておき、できる限り公的支援制度を活用していきましょう。